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第11話 村のかくれんぼ

 夏の終わり、お盆の季節。田んぼの稲穂が黄金色に染まり、夕暮れ時は赤とんぼが乱舞する、のどかな山里。そこでは古くから伝わる「村のかくれんぼ」が行われていた。


お盆の祭り、賑やかな太鼓と笛の音も静まり、夜空には満月が輝きはじめた頃、子供たちは集まってくる。年齢もバラバラ、小さなお子さんから中学生くらいの子まで、村の子供たちが皆集まってくるのだ。


「村のかくれんぼ」のルールは簡単だ。日没後、村のあちこちに隠れて、大人たちが子供たちを探す。見つかった子供は、その場でゲームを終了し、一目散に自分の家に帰る。そして、最後まで見つからずに残った子供、つまり「勝ち残り」には、ご褒美が与えられるのだ。


ご褒美の内容は毎年違う。時にはお菓子の詰め合わせ、時にはおもちゃ、時には村の大人たちが手作りしたご馳走、子供たちにとって魅力的なものばかりだ。


しかし、この「村のかくれんぼ」には、恐ろしい噂があった。


過去、何度か「勝ち残り」が出たことがある。しかし、その子供たちは、その後誰一人として村で姿を見せなかったのだ。まるで、この世から消えたかのように。


最初は単なる噂話として片付けられていた。子供たちは、ご褒美への期待感の方が恐怖心よりも大きかった。しかし、年々「勝ち残り」が出ても、その子が村から消えるという出来事が繰り返されるにつれ、村の子供たちの間にも、少しずつ不安が広がり始めた。


今年の「村のかくれんぼ」も、例年通りに始まった。子供たちは、それぞれが得意な隠れ場所を探し、大人たちは懐中電灯を片手に子供たちを探し回る。


その年の「勝ち残り」は、10歳の少女、よし乃だった。彼女は、誰よりも早く、誰よりも巧みに、大人たちの目を欺き、最後まで見つかることなく、夜が明けるまで隠れ続けた。


ご褒美として、彼女は村の古老から、美しい手彫りの木の人形を贈られた。その人形は、まるで生きているかのように、精巧に作られていた。よし乃はその人形を大事そうに抱きしめ、家に帰っていった。


しかし、翌朝になっても、よし乃は家から出てこなかった。両親が何度呼んでも、返事がない。戸を叩いても、反応がない。


村人たちは、よし乃の家の前に集まり、戸をこじ開けて中に入った。家の中は、物音一つしない。よし乃の姿はどこにもなかった。彼女の部屋には、綺麗に畳まれた布団と、そして、あの美しい木の人形だけが、残されていた。


それからというもの、よし乃は村から完全に消えた。まるで、この世から消え去ったかのように。


村人たちは、恐怖におののいた。よし乃が最後に持っていた木の人形は、まるで呪われたかのように、不気味な光を放っていた。


それから何年も経った今でも、「村のかくれんぼ」は行われている。しかし、子供たちは、以前のような無邪気な笑顔でゲームに参加することはない。彼らの目には、恐怖と不安が混じり合った複雑な表情が浮かんでいる。


そして、毎年、誰かが「勝ち残り」になる。そして、その子供は、村から消えていく。


「村のかくれんぼ」は、もはや子供たちの遊びではなく、村に伝わる恐ろしい儀式と化していた。誰もが、その恐ろしい真実に気づきながらも、誰もが、その呪縛から逃れることができないでいた。満月の夜、村の静寂を破るように、子供たちの泣き声が響き渡る。それは、恐怖の叫びであり、同時に、絶望の叫びでもあった。


 誰もが、この恐ろしいゲームの終わりを願っている。しかし、誰も、その方法を知らない。そして、誰も、この呪われた村から逃れることができない。

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