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第4話 三十体地蔵

第2話で首無し地蔵の話を書いたが、もう一つ、三十体地蔵の話をしよう。


 山間の集落、寒村。そこには、三十体の石地蔵が、村の守り神として、古びたほこらに並べられていた。代々語り継がれる言い伝えがあった。村に悪いことが起きると、必ず一つ、地蔵が倒れるというのだ。


 私は、この村で生まれ育った。幼い頃から、地蔵の並んだ祠は、私にとって、どこか神聖で、同時に、不気味な場所だった。三十体の地蔵、どれも表情は異なるものの、どれもが、長い年月風雨に晒され、苔むし、傷つき、どこか悲しげに見えた。


 最初の地蔵が倒れたのは、私が十歳の時だった。その年の冬、大雪に見舞われ、村は孤立し、食料も尽きかけた。人々は飢えと寒さにおびえ、絶望の淵に突き落とされた。そして、祠の一体の地蔵が、雪の重みに耐えかねて、崩れ落ちた。


それからというもの、地蔵が倒れるたびに、村には不幸が訪れた。疫病えきびょうが流行ったり、山崩れが起きたり、若者が事故で亡くなったり。地蔵の倒れる数は、村の不幸の数を示しているかのようだった。


村人たちは、地蔵の倒れる度に、恐怖と不安におびえた。そして、祈った。地蔵の加護を、村の安全を。しかし、祈りは、虚しく、地蔵は次々と倒れていった。


ある日、村の古老が私に言った。

「地蔵は、村の罪を背負っているのだ。村に罪深い者がいる限り、地蔵は倒れ続ける。」


古老の言葉は、私の心に深く突き刺さった。村には、隠された秘密、闇があったのだろうか?私は、その真実を探ることにした。


 私は、村の古い記録を調べ始めた。すると、驚くべき事実を発見した。この村は、かつて、恐ろしい事件の舞台となっていたのだ。数百年前、この村では、村人同士の争いが絶えず、殺戮と略奪が繰り返されていた。そして、その争いの犠牲となった人々の霊が、地蔵となって、村を守り続けているというのだ。


しかし、村の罪が消えない限り、地蔵は倒れ続け、村は不幸に見舞われるというのだ。


 私は、記録を読み進めるうちに、あることに気づいた。地蔵が倒れる順番には、規則性があった。それは、村の有力者一族の系図と一致していた。


私は、その一族の当主に会いに行った。彼は、村の有力者として、村を支配し、多くの富を蓄えていた。しかし、彼の顔には、深い闇が潜んでいた。


私は、彼に、古い記録と、地蔵の倒れる順番の規則性を指摘した。彼は、最初は否定したが、やがて、真実を語り始めた。


彼の先祖は、かつて、この村で起こった争いに深く関与していた。そして、その罪を償うために、地蔵を建てたのだ。しかし、その罪は、代々、一族に受け継がれ、地蔵は、その罪の重みに耐えかねて、倒れていくのだ。


彼は、涙ながらに言った。

「私は、この村を救いたい。しかし、どうすればいいのかわからない。」


私は、彼に提案した。村の罪を償うために、新しい地蔵を建立し、過去の罪を悔い改める儀式を行うことを。


彼は、私の提案を受け入れた。そして、私たちは、村人全員で、新しい地蔵を建立し、過去の罪を悔い改める儀式を行った。


儀式が終わると、静寂が訪れた。祠には、三十体の新しい地蔵が並べられていた。そして、不思議なことに、それ以降、地蔵は倒れなくなった。


 村には、平和が戻った。しかし、私は、三十体の地蔵が、かつて村に起きた悲劇の証人であり、村の罪を背負い続けていたことを、決して忘れることはないだろう。そして、この物語を、次の世代へと語り継いでいこうと思う。 三十体の地蔵は、今もなお、静かに、村を見守っている。

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