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第2話 首無し地蔵

 深い山間に囲まれた、ひっそりと佇む集落、寒村。そこには、古くから伝わる恐ろしい伝説があった。村はずれの廃寺跡に鎮座する、首無しの地蔵。その地蔵には、凄惨な過去と、今もなお続く呪いが宿っていたという。


 今から百年以上前、この寒村には、裕福な地主、庄屋辰五郎しょうやたつごろうが住んでいた。辰五郎は、村人から恐れられ、憎まれていた。その理由は、彼の冷酷非情な性格と、理不尽な搾取さくしゅにあった。村人たちは、辰五郎の圧政に苦しみ、いつの日か、彼への復讐を誓っていた。


 ある嵐の夜、村人たちは、辰五郎の屋敷に忍び込んだ。彼らは、辰五郎を殺害し、首を斬り落とした。そして、その首を、村はずれの廃寺跡に捨てた。その場所に、以前からあった地蔵に、辰五郎の首が置かれた。首無しの地蔵は、辰五郎の怨念を宿し、首無し地蔵となった。


 それからというもの、寒村では不可解な事件が頻発するようになった。夜になると、地蔵の周辺から、うめき声や、何かが這い回る音が聞こえてくる。村人たちは、恐怖に慄き、夜道を歩くことを恐れた。


 ある夜、若い娘、お菊が、その廃寺跡の近くで、奇妙な影を見かけた。影は、首無しの地蔵のそばを彷徨い、時折、不気味な光を放っていた。お菊は、恐怖に駆られながらも、影に近づいてみた。すると、影は、辰五郎の首の姿をしており、血まみれの顔で、お菊に襲いかかってきた。お菊は、悲鳴を上げて逃げ出し、その日の夜、彼女は高熱を出して倒れてしまった。


 その後も、首無しの地蔵の呪いは、村人を襲い続けた。村人たちは、次々と、不可解な死を遂げていった。ある者は、夜中に首を絞められて殺され、またある者は、何者かに惨殺ざんさつされた。村には、恐怖と絶望が広がり、人々は、夜になると、眠れなくなった。


 村の長老たちは、首無しの地蔵の呪いを鎮めるため、様々な儀式を行った。彼らは、地蔵に供物を捧げ、読経を唱えた。しかし、呪いは一向に解ける気配を見せなかった。


 ある日、村に、若い僧侶、行空ぎょうくうが訪れた。行空は、首無しの地蔵の呪いを解くため、廃寺跡を訪れた。行空は、地蔵の前に座り、静かに祈りを捧げた。すると、地蔵から、かすかな光が放たれ始めた。光は、次第に強くなり、やがて、地蔵の周囲を包み込んだ。


 行空は、地蔵の呪いを解くために、辰五郎の霊を成仏させる必要があった。行空は、辰五郎の霊に語りかけ、彼の罪を許し、安らかに眠るように説得した。


 長い時間をかけて、行空は、辰五郎の霊を成仏させた。そして、地蔵の呪いは、ついに解けた。村人たちは、喜びに満ちた表情で、行空に感謝した。


 しかし、その夜、行空は、何者かに襲われ、殺害された。行空の死後、首無しの地蔵の呪いは、再び村を襲い始めた。村人たちは、再び恐怖に怯え、夜道を歩くことを恐れた。


 首無しの地蔵の呪いは、永遠に続くものなのかもしれない。その呪いは、村の歴史に刻まれ、語り継がれていく。そして、寒村の人々は、いつまでも、首無しの地蔵の呪縛に怯えながら生きていくのであった。


それから何十年も経ち、寒村は廃墟はいきょと化し、首無しの地蔵だけが、静かにたたずんでいた。時折、夜になると、地蔵の周辺から、かすかなうめき声が聞こえてくるという。それは、辰五郎の怨念が、今もなお、この地に宿っている証なのかもしれない。そして、誰かがその地を訪れ、地蔵に近づこうとした時、呪いは再び動き出すだろう。 それは、決して終わらない、首無し地蔵の呪縛なのである。

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