深い山中に囲まれた小さな村、霜降村。そこでは古くから「狐火」と呼ばれる怪奇現象が伝えられていた。夜になると山道に現れる妖しく揺らめく光、それは狐の仕業だとされ、村人たちは恐怖の対象としていた。近づけば命を落とす、そう言い伝えられていた。
主人公の青年、修平は、都会育ちで霜降村に引っ越してきたばかり。都会の喧騒から逃れ、静かな生活を求めてきた彼にとって、狐火の伝説は単なる昔話に過ぎなかった。しかし、ある夜、修平は自身の目で狐火を目撃する。
それは、今まで聞いた話とは比べ物にならないほど、異様な輝きを放っていた。まるで生きているかのように、山道を這うように動き、時折、不気味な声を発するようにも聞こえた。修平は、恐怖を感じながらも、その妖しい光に引き寄せられるように、狐火に近づいていった。
狐火は、修平を深い森の中へと誘い込んだ。木々は不気味に影を落とし、足元には枯れ葉が積もり、一歩踏み出す度に音が響き渡る。修平は、携帯電話の電波も届かず、完全に孤立無援の状態だった。
森の奥深く進むにつれ、狐火の数は増え、その光はますます強くなっていった。修平は、自分が巨大な狐の檻の中に閉じ込められているような感覚に陥った。狐火は、まるで彼を誘導するかのように、複雑に入り組んだ道を進んでいく。
やがて、修平は、小さな祠にたどり着いた。祠の中には、朽ち果てた狐の像が安置されていた。その像の目は、不気味に光り輝き、修平を見つめていた。そして、狐の像から、かすかな声が聞こえてきた。
「……そこの若者よ……私の元へ来い……」
その声は、修平の心を深く
狐火は、修平の罪悪感を増幅させ、彼を絶望の
その時、狐の像から、強い光が放たれた。光は、修平の全身を包み込み、彼の心を浄化していくようだった。そして、修平は、狐火に導かれるまま、森の外へと出ていった。
森を抜け出した修平は、自分が村の入り口に立っていることに気づいた。狐火は、
しかし、修平の悪夢は、そこで終わらなかった。その後も、修平は、時折、狐火を目撃するようになった。それは、彼の心の闇を映し出す鏡のような存在だった。狐火は、修平が自分の罪を完全に償うまで、彼を追い続けるだろう。
修平は、狐火との出会いをきっかけに、過去の過ちと向き合い、贖罪の道を歩み始めた。しかし、彼の心には、狐火の不気味な記憶が、いつまでも残ることになるだろう。そして、彼は、狐火が再び現れることを、常に恐れることになるだろう。それは、修平の心の奥底に潜む、永遠の悪夢だった。
狐火は、単なる自然現象ではなく、人間の心の闇を映し出す、恐ろしい存在だった。そして、その闇に囚われた者は、永遠に狐火の呪縛から逃れることはできない。霜降村の狐火の伝説は、人々の心に深く刻まれ、語り継がれていくことになるだろう。