「真理愛のパパってホント若いよね!」
学校からの帰り道。
駅のホームで真理愛のスマートフォンの壁紙を見て、友人の
自宅の方向はそれぞれ別なのだが、今日は仲のいい友人三人組で寄り道するため同じホームで電車の到着を待っているところだ。
真理愛は小学校四年生で塾通いのために携帯電話を持たされてから、待ち受け画像は一貫して四人での家族写真にしていた。
ただし、画像自体は新しくお気に入りが増えるたびに更新される。
「まだ三十代なんでしょ?」
一緒に居たもう一人の友人の
「こないだ四十になったよ」
真理愛が答えるのに、希実は大袈裟な手振りを付けて返す。
「それでも十分若いって! 私のお父さんなんて五十五だよぉ」
「希実んとこは、お兄さん歳離れてるからしょーがないんじゃない?」
「ん~、まーね。お兄ちゃん七つも上だもん」
澪の言葉を、希実もすんなり受け入れて答えた。
「でもさ、おばあちゃまもすごいキレイだよね。昭和の映画女優みたい」
希実が称賛の声を上げるのに、澪はなんとも微妙な表情を浮かべる。
「……いや、そのたとえ全然通じないよ。なんでそんなの知ってんの? 言いたいことは、なんとなく伝わるけどさ」
澪の呆れたような言葉に、真理愛も遠慮がちに同意してしまった。
「うん、『映画女優』ってだけで褒めてくれてるのはわかる。でもあたしも正直ピンと来ない、ゴメン」
希実自身にも友人二人の反応は想定内のようで、事情を説明する。
「お父さんが昔の映画好きなんだよ。昭和の中頃? よくわかんないけど、うちにDVDいっぱいあるもん。それもずっと前はビデオテープだったのをDVDに買い換えて揃えたらしいのに、特に気に入ってるのはブルーレイでも買い足したり。『同じものいくつ買うんだ』ってお母さんが文句言ってた」
「あー。でも趣味の拘りって、他人には理解されないこと多いよね。あたしキャラグッズ結構買うけど、『そんなの集めてどーすんの?』って鼻で笑われたりとかさぁ。どうもしないよ、ただ好きなんだよ。迷惑掛けてないんだからほっとけよ」
澪がさらっと私怨を込めて便乗したのに、真理愛も笑って同調した。
「あはは。あるある。あたし別に本格的じゃないんだけど、星見るの好きでしょ? 『つい夜空見上げちゃうんだ~』って言ったら、なんか変人扱いされたりしたよ。ホント理屈じゃなくて好きなんだからいいじゃん! って思うなぁ」
「なんでも否定から入る人って何なんだろーね。好きなもの貶されたら気分悪いの当たり前なのにさ」
三人で、脱線ついでに愚痴を零しながら笑い合う。
「そういえばさ、真理愛とおばあちゃまって確かによく似てるんだけど、イメージがちょっと違うよね。真理愛は別に『昔の女優』感ないし。もっと今っぽい?」
「うん、確かに。そっくりだけど真理愛の方が現代的な感じする」
希実が話を戻すのに、澪も真理愛の手のスマートフォンを再度確認して、納得したように頷いた。
「うーん、自分ではよくわかんない。でも、小さい頃から『そっくり』って言われてるけど、瓜二つって程じゃないと思う。目以外はそこまで似てない気もするし。そういうことかな」
真理愛が考えつつ話すのに、澪が思いついたように付け加える。
「あと、髪の色が明るいからかも。真理愛のおばあちゃんが、もともとどういう色だったのかは知らないけどさ」
「祖母は髪は黒かったみたい。確かに髪色でイメージかなり変わるよね」
「あ! そろそろ来るよ。行こ」
希実の声を合図に、連れ立って電車待ちの列の最後尾に並ぶ。
日々増える、……これからも増えて行く一方だろう家族の写真。
何かあるたびにはもちろん、何もなくても「写真を撮ろう!」と言う祖父。決して反論することなく、素直に従う祖母と父。
幼い頃は、祖父がカメラが趣味だからだと思っていた。
「
いつだったか、祖母の弟である大叔父に会った際、彼が祖父に掛けた言葉。
その時初めて、祖父はカメラなどさして興味もなかったのだと知った。以前は、とりあえずコンパクトカメラが家に一台あったきりだそうだ。
同時に、祖父の被写体が真理愛や家族だけだということにも気づいた。
子どもの目にも立派に見えたデジタル一眼レフで撮るには、不釣り合いなほどの日常のスナップばかり。本格的な三脚も、セルフタイマーで四人一緒に写るためなのだろう。
「真理愛? ほら、乗るよ」
「あ、あ! うん」
ぼんやりしていた真理愛は、澪に肩を叩かれて慌てて笑顔を作った。
~END~