「ねぇ、おばあちゃんも『ハーフなの?』ってよく言われてたんだよね?」
学校から帰って、祖母が用意してくれていた焼菓子を二人で食べながらお喋りする。
いつもは三人なのだが、今日は祖父は通院日だ。最近、あまり体調がよくないらしい。
真理愛が訊くのに祖母は一瞬間を置いて、質問の意図を理解したのか笑顔で答えた。
「そのまんまじゃないけど、そうね。おばあちゃんは昔だし田舎だったから、『ハーフ』って言葉より『外国の血が入ってるの?』って感じだったわ」
真理愛は、父とはあまり似ていない。少なくとも「似ている」と言われた覚えはなかった。
また、写真もほとんど残っていないため判断しようもないのだが、母とも
その代わり、祖母を知っている人は例外なく「おばあちゃんそっくりだねぇ」と感心したように口にするのがお決まりだった。
祖母の、年を重ねてなお大きな目。かつてほどではないのだとしても、くっきりした二重瞼。日本人離れしていると、若い頃から飽きるほど言われて来たらしい。
本人にとっては、あまり嬉しいことではなかったようなのだが。
「やっぱそうなんだぁ。あたしもたまに言われるの。目が日本人ぽくないって。今日もクラスの友達に訊かれたんだよ」
真理愛は何気ない雑談のつもりでしかなかったのだが、祖母は顔を曇らせた。
「なんか申し訳ないわね。おばあちゃんに似たせいで嫌な思いさせちゃって……」
恐縮したような祖母の声に、真理愛は慌てて手を振って否定する。
「やだ、違うって! あたしは全然イヤじゃないよ。おばあちゃんキレイだし、嬉しいに決まってるでしょ」
「……本当に? おじいちゃんやパパは、同じ二重でもきりっとして格好いい感じなのに」
祖母の、過去に味わったのだろう苦労が忍ばれる気がした。
今とは時代も違う。真理愛と同じ言葉を掛けられたとしても、そこに込められた意味が異なる場合もあることくらいはなんとなく察せられるからだ。
「パパたちもカッコいいと思うけどさ。でもおばあちゃんはすごくキレイ。あたしはおばあちゃんに似てよかったよ、ホントに。だってみんな言ってくれるじゃない? 『おばあちゃんそっくりで美人だ』って」
「……真理愛ちゃんは、おばあちゃんなんかよりずーっと綺麗で可愛らしいわよ。自慢の孫なんだから」
そういえば、祖母とその弟に当たる
二人は他の兄弟はじめ親族の誰とも掛け離れた外見で、生家では随分苦労したらしい。いつだったか、訪ねて来た大叔父と初めて会った時に話してくれた。
「真理愛ちゃんか。姉ちゃ、──おばあちゃんによく似てるなぁ。親じゃなくて祖父母とか、もっと前の先祖に似ることなんてよくあるんだよな」
さすがに大叔父も、まだ小学生だった真理愛に詳細を語ることはしなかった。
ただ、のちに父や祖母に聞いた話と合わせると、おそらくは「外国人との子ではないか」「祖母の母の不貞の結果では」と周り中に冷たい目で見られていたのだろうと察せられた。実の父親にまで。
祖母は高校卒業後、みっともないから外に出るなと言われ家の手伝いをさせられていたが、三歳下の大叔父が高校を出ると同時に二人で都会に出て来たという。
自分たちの出生を疑う父親から庇ってくれた母親が、もう戻らなくていいと泣いて送り出してくれたのだとか。
もう五十年近く前の話だ。
実際に、父の母方──真理愛にとっては祖母に連なる親族とは完全に断絶状態だ。
今まで真理愛は修大叔父にしか会ったことはない。
父自身も修叔父以外には顔を合わせたこともないし、消息さえ耳にしたこともないと話していた。
「圭ちゃん、可愛い子どもができてよかったなぁ。叔父さんは一人だから、厚かましいけど孫みたいに思わせてもらっていいかな」
父にそう語り掛けたあと、真理愛に向けてくれた笑み。祖母によく似た優しい表情。
「もちろんです! 真理愛にも少しでも頼れる大人は多い方がいいし」
「修、『孫みたい』でも『孫』じゃないからね。そこは弁えなさいよ」
明るく承諾する父の言葉を受けて、笑い混じりにも釘を刺す祖母。大叔父も気分を害した様子もない。
この姉弟の間には、苦悩を共にして来たことで培われた強い絆があるのだろう。