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第六幕 想い溢れて、慈愛の雫

琴御方は信濃の東、小県郡に根を張る名門、海野棟綱が愛娘である。

海野氏といえば清和天皇を祖とする名家、滋野氏の流れを汲む古く由緒正しい家柄。

その中でも滋野三家の嫡流として知られ、この地で長きにわたり確固たる地位を築いてきた。


そんな名門に生まれ、真田頼昌の妻となった琴は、その出自に恥じぬ気品と優雅さを兼ね備えた女性であった。

まだ年若い彼女の肌は抜けるように白く、長い黒髪は手入れの行き届いた絹糸のように艶やかである。

伏し目がちの大きな瞳には深い知性と慈愛の光が宿り、すっと伸びた鼻筋と形の良い小さな唇は、精緻な彫り物のように美しい。


幼き頃より学問や芸事に親しみ、豊かな教養を身につけてきた彼女はまさに「美姫」と呼ぶにふさわしい女性であった。

その名の通り、琴の演奏をこよなく愛し自らも見事な腕前を誇る。

彼女が爪弾く琴の音色は聴く者の心を癒し、時には高揚させる不思議な力を持っていた。


初夏の陽光が木々の間から優しく降り注ぐある日の午後。

琴は館の庭に聳え立つ大きな木の下で、愛用の琴を爪弾いていた。


傍らには色鮮やかな絹の衣を纏った女中や、真田家に仕える家臣たちがかしこまって控えている。

その中には胡蝶に仕えている野盗上がりの者たちの顔も見える。彼らは皆、琴の奏でる音色にじっと耳を傾けている。

その手にはそれぞれ野花やお香、菓子などが握られており、このひと時が彼らにとって、どれほど貴重な時間であるかを物語っていた。


「~♪」


琴の長くしなやかな指が、琴の糸の上を優雅に舞う。

その動きは風にそよぐ柳の枝のようにしなやかで、それでいてどこか儚げであった。

琴の糸から紡ぎ出される澄んだ音色は、初夏の風に乗って庭の隅々まで響き渡る。

それは時に優しく。時に激しく。聴く者の心を揺さぶる、魂の調べ。


「ああ、なんと美しい音色だ」

「うむ……琴様の琴の音は、まるで天女の奏でる音楽のようだ」

「心が洗われるようでございます……」


女中たちはうっとりと目を閉じ琴の音色に酔いしれていた。

野盗上がりの男たちも普段の粗暴さを忘れ、静かに耳を傾けている。


「……」


その様子を庭の隅に立つ大きな木の影から、そっと見つめる一つの影があった。


胡蝶である。


彼は母の奏でる琴の音色に誘われ、ここまでやってきたのだ。

しかしその場にいる人々の輪に加わることなく、こうして木陰から母の姿を見つめていた。


胡蝶は、母のあまりにも美しい姿に心を奪われていた。

長い黒髪を風になびかせながら一心に琴を奏でる母の姿は、この世のものとは思えぬほど神々しく美しかった。

その姿は胡蝶が夢の中で見るどの光景よりも鮮烈に、彼の心に焼き付いていた。


(母上は……何と、美しいのだろう)


胡蝶は息を呑んだ。

その胸の内には母への深い敬愛と、そして言葉にできぬ複雑な想いが渦巻いていた。


彼は母の奏でる琴の音色が大好きだった。

その音色は胡蝶の心を優しく包み込み、彼の孤独をほんのひと時忘れさせてくれる。

しかし同時に、その音色は彼の心を激しく揺さぶるのだ。

それはまるで、彼が心の奥底に閉じ込めている「何か」を呼び覚ますかのように……。


(私は、一体、どうしてしまったのだ)


胡蝶は自らの胸に手を当てた。

その胸の内には言いようのない不安と微かな高鳴りが渦巻いていた。


彼は母の姿から目を離すことができなかった。

まるで何かに取り憑かれたかのように、ただじっとその姿を見つめ続けていた。


そうして、琴御方の奏でる優美な琴の音が初夏の庭に響き渡る。

その清らかな音色は聴く者すべての心を優しく包み込み、しばしこの世の憂さを忘れさせてくれる。

琴はそっと目を閉じ、遠い日の出来事に想いを馳せるかのようにゆっくりと、一首の歌を詠んだ。


「世を憂しと 嘆く間にも 日は暮れて 戦なき世ぞ 永久に望まる──」


次いで、もう一首。


「吹き渡る 初夏の風に 祈り乗せ 我が子の幸を ただに願わん──」


琴御方が母として胡蝶を想う気持ちが、痛いほど伝わってくる。

優雅でありながら、そして母の願いが込められた力強さを持つ見事な歌だった。

その歌は言の葉となって、聴衆たちの心に深く静かに、染み渡っていく。


「なんと、お美しい……」

「見事な歌でございます」


家臣や女中たちは皆、感嘆の息を吐き口々に賛辞を述べた。

野盗上がりの男たちもじっと、その歌に聞き入っている。


「……」


しかし。

ただ一人、胡蝶だけはその場に立ち尽くし、俯いたまま動けずにいた。

彼は母の歌に込められた深い愛情と、切なる願いを痛いほど感じ取っていた。


──この世は憂いに満ちていると嘆く間にも、1日はあっという間に過ぎていく。戦のない世の中が訪れ、その世が永久に続いて欲しい。

──吹いてくる初夏の風に私の祈りを乗せて、ただひたすらに、私の子の幸せを願い続けよう。


それが、母の詠んだ歌の意味。

自分に向けられたその想いの深さに、胸が締め付けられる思いだった。


(あぁ……)


胡蝶は母の深い愛情を誰よりも理解している。

それ故に母の願いを無下にはできないのだ。

しかし同時に、胡蝶は武士として生きる道を諦めきれずにいた。

その狭間で、彼の心は激しく揺れ動いていた。


「母上……私は……」


胡蝶は小さく呟いた。

その声はあまりにも小さく誰の耳にも届くことはなかった。

彼は俯いたままぎゅっと拳を握りしめた。

その手は微かに震えていた。


(私は、どうすれば良いのだ……)


胡蝶は自問自答を繰り返した。

しかしその問いに対する答えは見つかりそうになかった。


彼は立ち尽くしたまま、母の歌声に静かに耳を傾け続ける。

静寂の中、琴の余韻が名残惜しそうに風に溶けていく。


その時だった。


「……こうして私一人で琴を弾き、歌を詠むだけではどうにも寂しゅうございますね」


不意に。琴御方が優美な扇子で口元を隠しながら、独り言のように呟いた。


「どなたか私の奏でる調べに合わせ、舞を披露してはくださいませぬか?」


そう言うと彼女は、近くの木の陰に視線を向けた。

その優しげな眼差しには、悪戯っぽい光が宿っている。

隠れている幼子を見つけた母親のようなそんな眼差し。


木から顔だけ出して覗き込む胡蝶と、琴の視線が交差した。

彼は母の視線に気づき慌てて物陰に身を隠そうとしたが、時すでに遅し。


「あら、胡蝶どのがいらっしゃったのですか?」

「まあ、本当。まるで美しい蝶が、琴の音に誘われてきたかのようですね」


女中たちがくすくすと笑いながら口々に言った。


「まったく、昔からかくれんぼが下手な蝶々さんですこと」


琴は上品な扇子で口元を隠しながら、楽しそうに言った。

その言葉に胡蝶は観念したように、ゆっくりと木の陰から姿を現した。

その頬はほんのりと赤く染まり、熟れた果実のようである。


「母上……恐れ多くも、この胡蝶、未熟ながら、舞を披露させていただきます」


胡蝶はそう言うと母の前に進み出て静かに、そして深く頭を下げた。


「ええ、楽しみにしておりますよ。……さあ、美しい蝶々さん。私と共に、このひと時を、奏でましょう」


琴はそう言うと、再び愛用の琴に手をかけた。

静寂が再び庭を包み込む。

しかしそれは、先ほどまでの静寂とは違いどこか華やかな、期待感に満ちた静寂。


静寂を切り裂くように、琴の音が再び庭に響き渡る。

それは先ほどよりもさらに優雅で、そして楽しげな調べだった。

胡蝶の舞を、心待ちにしているかのように……。


胡蝶は母の奏でる琴の音色に、そっと目を閉じた。

その長い睫毛が頬に、優雅な影を落とす。


そして彼は風と琴の音に誘われるようにゆっくりと舞い始めた。

その動きは蝶が花から花へと、優雅に飛び回るかのようで……。


時に激しく、時に静かに。

時に力強く、時に儚げに。


胡蝶の舞は母の奏でる琴の音色と、完璧に調和していた。

一つの生き物のように互いに呼応し、共鳴し合い。

胡蝶の長くしなやかな四肢が空を切り、宙を舞う。


彼の纏う淡い水色の衣が、蝶の羽のようにひらひらと宙を舞う。


「なんと、美しい」

「まるで、本物の蝶が舞っているようだ……」

「胡蝶殿の舞はいつ見ても、心が奪われますな……」


観衆たちは皆、息を呑み胡蝶の舞に見惚れていた。

その場にいるすべての者が、胡蝶と琴が創り出す美の世界に完全に心を奪われていた。


胡蝶は舞いながら、母の顔をちらりと見た。

琴は目を細め優しく微笑んでいた。

その表情は慈愛に満ち溢れ、胡蝶の心を温かく包み込む。


(母上……)


胡蝶は心の中で呟いた。

彼は母の奏でる琴の音色に導かれるように、さらに激しく、そして優雅に舞い続けた。


「……」


一方で琴御方もまた、息子が描くこの世のものとは思えぬほど美しい舞から、一瞬たりとも目を離すことができずにいた。

優雅に宙を舞い、時に激しく、そして儚げな胡蝶の舞。

それは幼き頃から彼を見守ってきた琴ですら、初めて見る新たな胡蝶の姿であった。


(嗚呼……胡蝶……)


琴の胸の内には言いようのない感動と、深い愛情が波のように押し寄せてくる。


彼女の脳裏に、胡蝶と過ごしてきた数えきれないほど多くの日々が、走馬灯のように蘇る。


頼昌の腕の中ですやすやと眠っていた、小さな赤子の頃の胡蝶。

初めて「母上」と呼んでくれた時の、あの無垢な笑顔。

初めて剣を握り、頼昌と打ち合いをした時のあの真剣な眼差し。


成長するにつれ胡蝶の容姿は年々美しさを増していった。

しかし琴にとって胡蝶はいつまで経ってもあの小さく、そして愛らしい赤子のままだった。

守らねばならぬ、か弱い存在。


籠の中の美しい鳥のように大切に、大切に……育ててきた。


(そう……胡蝶は、私の可愛い息子。この子だけは、何があっても、私が守らなければ)


琴は、そっと胸に手を当てた。

その胸の内には、母としての、強い決意が宿っていた。


(決して、血生臭い戦場には行かせはしない……源太左衛門や虎千代と違って、武士の血が流れていないこの子は過酷な戦場を生き残れないだろう。この美しさのまま、穏やかに、幸せに生きていてほしい……。この手の中でずっと、ずっと、守り続けて……)


それは母の深い愛情と、そして息子の未来を案じる切なる想い。


胡蝶の舞は優雅で儚かった。

その舞は琴の心を優しく、そして力強く揺さぶる。

それは胡蝶自身の心の叫びのようにも聞こえた。


(胡蝶……貴方は一体何を思い、何を願い舞っているの……?)


琴は息子に心の中で、そっと問いかけた。

しかしその問いに対する答えは、胡蝶自身にもまだ、分かっていないのかもしれない。


琴はただ、息子の舞をじっと見つめ続けた。

その瞳には母の深い愛情と、そして一抹の不安が揺らめいていた。


母の奏でる、優美な調べ。

それに合わせ、天女のように舞う息子の姿。


琴はただひたすらに愛用の琴を奏で続けた。

長くしなやかな指先が琴の糸の上を自由自在に舞う。


胡蝶もまた母の奏でる琴の音色に、全身を委ねるように舞い続けた。

永遠に続いてほしいと願う、夢幻のような時間だった。

しかし永遠に続くものはこの世には存在しない。

美しい夢がいつかは覚めてしまうように、その夢幻の時にも終わりが訪れる。


「あっ……」


琴は思わず小さな声を漏らした。

息子の優雅な舞に夢中になるあまり、時が経つのをすっかり忘れていたのだ。

琴の指先が最後の糸を弾き、静かに動きを止める。

同時に胡蝶の舞も終わりを迎えた。


琴は、はっと我に返った。その瞳には名残惜しさと一抹の寂しさが浮かんでいた。


「……もう、終わりなのですか?」


傍らに控えていた女中が、残念そうに言った。

その声は、この場にいるすべての者の気持ちを代弁しているかのようだった。


「ええ……。また、今度」


琴は、寂しそうに微笑みながらそう答えた。

その声は、自分自身に言い聞かせているかのようでもあった。


「それでは、終いの舞いを……ご照覧あれ」

「!?」


曲の終わりに、胡蝶はひときわ大きく、そして高く跳躍した。

その跳躍は先ほどまでの女性的で優美な動きとは打って変わり、力強く、そして雄々しい武士を彷彿とさせるものだった。

長くしなやかな四肢が空中で美しい弧を描く。

その姿はまるで──戦場を駆ける若武者。


──その時だった。


「──」


不意に、琴の脳裏にとある光景が浮かんだ。

血しぶきが舞い、怒号が飛び交う戦場の光景。

その中心で鬼神のように優雅に力強く舞う、武者姿の胡蝶の姿。


その手には血に濡れた一振りの太刀が握られている。

その表情はいつもの優しい面影はなく、冷酷で……どこか悲しげだった。


その光景はあまりにも鮮明で、あまりにも生々しかった。

琴は思わず、息を呑んだ。


(い、今の光景は……一体?)


琴は自らの胸に手を当てた。

その胸の内には言いようのない不安と、恐怖が渦巻いている。


その時胡蝶がふわりと地上に舞い降りた。

美しい蝶が花びらの上にそっと降り立つように。


「……」


琴の視界がゆっくりと現実に引き戻される。

そこには先ほどまでと変わらぬ優雅な舞を披露した直後の息子の姿があった。

彼はゆっくりと最後の型を取り、静かに動きを止めた。

その表情は穏やかで、先ほどの幻影で見た鬼気迫るそれとはまるで別人。


しかし……琴の胸の内には先ほどの光景が鮮明に焼き付いていた。


「──お見事」


傍らに控えていた家臣が、感嘆の声を上げた。

その声に、周囲の人々もはっと我に返り、次々と胡蝶の舞を称賛する言葉を口にした。


「いやはや、見事な舞いでございました、胡蝶殿」

「さすがは、琴様の御子。音と舞いの、見事な融合でございました」


家臣や女中たちが次々に胡蝶に称賛の言葉をかける。

胡蝶は照れたように、はにかむような笑みを浮かべた。

その様子は普段の凛々しさとは異なる、年相応の愛らしさがあり周囲の人々の心をさらに和ませる。


「い、いえ……私など、まだまだ……」


胡蝶は謙遜しながら頭を掻いた。

その仕草は褒められ慣れていない子供のようで、彼の純粋さを感じさせた。


「何を、ご謙遜を」

「そうですよ、胡蝶様。あんなにも美しい舞、なかなか見られるものではございません」

「それに、琴様の琴の音色との調和も、見事でございました」


家臣や女中たちは、口々に胡蝶を褒めそやす。

胡蝶はその言葉にどう反応して良いのか分からず、ただ照れ笑いを浮かべるばかり。


その時だった。


ふと、胡蝶は母の視線を感じ顔を上げた。

視線の先には、じっと自分を見つめる母・琴の姿があった。


一瞬、母と息子の視線が交錯する。

胡蝶は母が自分の舞を褒めてくれるものと思い、無邪気な笑みを浮かべ彼女の言葉を待った。


しかし……。


「う……うっ……うぅ」


次の瞬間、琴の瞳から大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。

堰を切ったように次から次へと溢れ出し、美しい頬を伝っていく。


「え……!?」


突然の出来事に胡蝶は目を丸くして驚いた。

周囲の人々も何が起こったのか理解できず、呆然とその様子を見つめている。


「は、母上!? ど、どうなされたのです!?」


胡蝶は慌てて母に駆け寄り、その肩を優しく抱きしめた。

その手は恐怖と不安で、わずかに震えていた。


「だ、大丈夫ですか、母上……? どこか、具合でも……?」


胡蝶は母の顔を覗き込み、心配そうに尋ねた。

しかし琴はただ首を横に振るばかりで何も答えない。


「こ……胡蝶が……胡蝶が悪いのです……」


琴はまるで子供のように、嗚咽を漏らしながらそう言った。

その声は涙で震え今にも消えてしまいそうだった。


「え……わ、私が……? 私が、何か……?」


胡蝶は、母の言葉に、ひどく狼狽した。

一体、自分が何をしたというのか全く見当がつかない。

周囲の家臣や女中たちも、何が何だか分からず、ただ困惑した表情を浮かべている。


「な、何故私が悪いのです……? 私が、いったい何をしたというのですか母上……?」


胡蝶は母の肩を優しく揺さぶりながらもう一度尋ねた。

しかし琴は何も答えず、ただ泣きじゃくるばかりだった。


「うぅ……胡蝶は……いつも、いつも、私の言うことを聞かずに……危ないことばかり……うぅ……」


琴は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、ようやくそう言った。


「危ないこと……? 私が、いつ、危ないことなど……」


胡蝶は、心当たりを探るように、記憶を辿った。

せいぜい、大イノシシを狩ったことくらいだが……。

いや、もしかしてそれか?……それだろうな。


「……もしかして、イノシシのことですか? でも、あれは……」


胡蝶が、そう言いかけた時だった。


「そうよ!イノシシも!どうして、あんな危ない真似を……!それだけじゃない……!この前だって、野盗退治だとか言って、一人で……!胡蝶が、私の前からいなくなってしまったら、どうしようかと……!」


琴は、幼子のように大声で泣き出した。

その様子は先ほどまでの優雅で気品あふれる姿とはまるで別人のようだった。


「し、しかし、あれは、皆を守るために……」


胡蝶は慌てて弁解しようとしたが琴の泣き声にかき消されてしまう。


「胡蝶は、いつもそうなの……! 私の言うことなんて、何も聞いてくれない……! 」


琴は駄々をこねる子供のように、泣きじゃくった。

胡蝶は泣きじゃくる母を前にただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

彼は、母を悲しませたいわけではなかった。

ただ、母の役に立ちたい……母を守りたい……その一心だったのだ。


周囲の家臣や女中たちもどうして良いのか分からず、オロオロとその様子を見守るばかりだった。

その場は何とも言えない奇妙な空気に包まれていた。


「は、母上……その……申し訳ございません」


こうして胡蝶と琴、そして真田家の人々の一日は、何とも奇妙な結末で幕を閉じたのだった。

この一件は「胡蝶殿、母上に泣かれる」という珍事として、しばらく語り継がれることとなる……。


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