「・・・」
「・・・」
お互い無言で剣をふるう
カン!カキン!と金属同士がぶつかる音だけが荒野にこだまする
星降る夜に、二人きりで、えんえんと、剣をふるう
ツクは、剣を打ち込み
ヨミは、それをすべて受け、流す
ヨミの防戦一方に見えて、ヨミは傷一つ負っていない
ツクは焦る
二人に技量の差はほとんどない
なのに
繰り出す剣のすべてを、ヨミは難なく受け止め、かわす
泣きたい
どうあがいてもこの心は偽れない
ツクはそう思う
思いを言葉にすることをツクは必死に抑えている
12で初めて出会って、見つめ合って、戦場だと言うのに時が止まって
あれ以来、どうあがいても、どんなに言葉にすまいと思ってその通りにしても、わかってしまう
剣が、叫んでいる
ツクの思いを剣が叫んでいる
そしてそれを、ヨミの剣が、受け止める、何度でも、優しく、偽り続けるツクを責めることなく、何度も
「・・・」
「・・・」
カン!カン!カン!と小気味よく剣が打ち合う音だけが響き続けている
何度も何度も目が合う
目が合うたびにツクは、剣を投げ出したい衝動に負けそうになる
剣ではなく、言葉で語りたい
言ってはいけない言葉を、ツクは必死に飲み込む
それさえも、ヨミはわかってくれている
ヨミにこんなにも甘えている自分
それでもなお偽り続ける自分
言葉にしなくても
剣を放り捨てなくても
こうして打ち込む剣のすべてを、ヨミは受け止め、流してくれる
それはまるで、
打ち込まれている方のヨミがリードを、打ち込んでいる自分の方がそのフォローを、
それぞれ息ぴったりにして、
髪の毛一本ほどのずれもないそんな完璧なダンスにも思えて
なら
これでいいんじゃないかとさえツクは思う
言葉にしなくてもこのままで
このままでいたいとさえツクは思う
こうして剣をふるってさえいれば、あなたとつながっていられる、ヨミ
・・・これでいいよね?
そう思う瞬間に、ヨミの強い目に射すくめられる
偽らないで
誤魔化さないで
うそをつかないで
美しく優しい瞳が、それでもツクを責める
問い詰め
追い詰める
あなたはどうしたいの?
どうなりたいの?
どうありたいの?
私と、どうありたいの?
ヨミの瞳が、ツクに優しくそう告げている
ツクは逃げられない
泣きたい
もうわけがわからない
族長の娘としての矜持と責任
それを必死に守っている自分
それを今すぐ放り投げて捨ててしまいたい気持ち
剣ではなく言葉で叫びたい気持ち
でも言えない
言ったら
言ってしまったら
二度と元には戻れない
皆を、裏切ってしまう
「・・・ツク、離れて」
「え?」
「離れて」
少し声を低くしてヨミがそう言った
ツクは、言われたとおりに、ヨミから離れた
ヨミに従うことに何の疑問もない自覚がツクにはある
ヨミから少し離れて、ツクは胸騒ぎがした
「・・・あたしと、殺し合いたいんだね?ツク」
「え?」
「あたしと殺し合うこと、それがあんたの望みなんだね?ツク」
世界で一番美しい女が、そう言って剣を構えなおした
その目から優しさが消えた
その目から優しさが消えることを自分は想定してなかったとツクは気づいた
お互い剣姫と称されるほどの腕の持ち主
でもその瞳から優しさが消えたことはついぞなかった、ツクにとっては
ツクを見つめるひとみはいつも優しかったから
その瞳が今、剣姫の名に恥じない冷徹な色を湛え始めている
いくつもの戦場を駆け抜けた戦士の瞳
ヨミの持つ剣が不意にその冷たさと重さと切れ味をあらわにしてツクに気づかせる
今ヨミは自分を殺すと決めたのだと
それでもなお
「・・・行くよ、ツク」
そう告げて剣を構えるヨミは、世界で一番、美しい女だった
その姿に、ツクは、ただただ、言葉を失くしていた