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第4話 駆ける

星が降りてくる




そんな言い回ししか思いつかないような夜の荒野、二人の女が対峙している


お互い剣を構えている


「・・・寒いね、ツク」


「すぐ温まるわ、ヨミ」


そう言って金髪の女は剣を構えなおす


それをみて黒髪の女も、あきらめたようにため息を一つついて、剣を構えなおす


それぞれ年は17、同い年だ


お互い長年敵対する部族の長の娘に生まれた


黒髪の女はヨミ


金髪の女はツク


二人は戦場で出会った



12の年で初めて出会い、お互いを敵と思った


幾度か、対峙した


対峙するそのたびに、お互いの持つ剣の動きが、止まった


そんなとき決まって、二人は、お互いの顔を、瞳を、見つめ合っていた


命のやり取りをする戦場で、ほんのひと時、時が止まる


他の相手ではそうはならない


ヨミにはツクが、ツクにはヨミが、お互い対峙したその時だけ、時間が止まる


会えるのはいつも戦場、誰も好きになどなれない場所


やり取りするのはお互いの命


なのに、いつも次の戦を楽しみにしている


戦になれば、会えるから


あの子に、会えるから


ヨミもツクも、自分の気持ちを、そして相手の気持ちを、わかっていた


自然とわかってしまっていた


戦場と言う血なまぐさい場所で


命のやり取りをする敵の娘同士で


二人はもうどうしようもないぐらいひかれあう自分を、自分たちを自覚していた


「ねえツク、これが終わったら」


「終わった時は、あなたか私かどちらかが死ぬときよ、ヨミ」


剣を構える者同士にふさわしい言葉をツクは言う


「・・・これが終わったらさ、話を聞いてくれない?あたしの話を」


お互いを想う者同士にふさわしい言葉をヨミが言う


見透かされている、とツクは思う


殺したい、そう思えたらどんなに楽だろう


憎めたら、どんなに、自分は救われるだろう


でもできない


殺したいと思うことも、憎いと思うことも、自分にはできない


そんな自分をヨミは見透かし、そして、欲しい言葉をくれる


「・・・行くよ、ヨミ」


欲しい言葉を振り払う言葉をツクは今夜も選び


「・・・いいよ、ツク」


欲しい返答を今夜もあきらめてヨミは答える


「・・・ヨミ」


ツクは、目の前にいる女を、世界一美しいと思う


星の降る荒野に二人きりの今、この女の目に映るのが自分だけであることを嬉しいと思う


同じことをヨミが思ってくれているなら・・・そう思う


「・・・行くよ」


振り払うように、ツクはもう一度そう言い


「いいよ、おいでツク」


そう答えてくれたヨミの腕の中に飛び込むように、駆けた











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