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第3話 浮気なんて

「あの女、じっとツクのこと見てた」


ヨミはそう俯いてそう言った


恋人から浮気を疑われてると感じたツクは、嬉しいと思うよりも、困惑した


ヨミの言っている「あの女」とは、先ほど入ったお店の店員さん


年は親子ほどにも違う


第一、こちらの年はもう70も半ばだ


お互い恋愛対象になるはずもない


それに、まず、異性愛だと思うのだ、たいていの女は


なら浮気に結び付けるのは少し、行き過ぎではないだろうか


「考えすぎよ、ヨミ、第一あの子はあなたにも笑ってたでしょ?」


「目は笑ってなかった、あんたを見る目と私を見る目、あんたを見てたあの女の目は、若いころの私にそっくりだよ」


「自分の目なんて見れないでしょう?」


「見れるさ、何度も何度もあんたを思って、どうにかなりそうになっては、鏡に映る自分の顔を見たからね」


「・・・」


「あの店には二度と行かないよ、ツク」


あきれてしまう


あんな若い子から恋愛の対象になるわけがないではないか


そんな心配する必要などどこにもないと言うのに


「聞いてる?ツク、あの店には二度と行かない、いいね?」


「・・・ねえ、ヨミ、人が見てる、声が」


「なら怒らせないでよ、あたしを、あたしは一生懸命我慢してるんだからね」


「我慢?」


「今、ここで、あんたを抱きしめ、キスしてやろうか?」


往来の真ん中に二人はいる


ツクは思わずヨミの目を見る


本気だ、と悟る


「・・・ヨミ」


「あたしはいっぱい我慢をしてる、あんたを困らせたくないから

でもあたしはほかの人たちにどう思われたってかまわない」


「・・・わかった、わかったわヨミ、二度とあの店には行かない」


「・・・」


「約束するわ、ほんとよ」


「・・・ならいい」


「・・・ヨミ、手をつなご?」


「・・・ん」


ヨミが手を差し出し、ツクはその手に自分の手をそっと重ねる


「される方」であるツクは、昔、自分の夫だった男にそうした時より、自分と同性のヨミと手をつなぐことの方に、恥ずかしさを覚える


まるで娘に戻ったみたいだ、と何度も思う


もう70も半ばのおばあちゃん二人が、恋人同士だなんて、一体だれが思うだろう


こんなにも、ドキドキしてるなんて


「ツク」


愛しい人が、ツクの名を呼ぶ


その目の中に、ギラギラしたどう猛さは鳴りを潜め、代わって優しさが宿っているのをツクは見て取る


ツクはホッとすると同時に、少しの後ろめたさを感じる


また、ヨミに我慢をさせている


キスぐらい、もう、人前でだってしてもかまわないだろう


周りは変な目で見る人の方が多いだろうけれど、でも、ヨミがそう望むなら


ツクはそう思う


でも、やはり、できない


そんな自分に、ツクは、ヨミに気づかれぬように、ひそかに唇を噛んだ

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