昔々、かちかち山に住む老夫婦が、狸にだまされて辛い思いをしていた。狸は老夫婦の家を訪れ、悪戯をしては、貴重な食料を奪っていった。老夫婦は困り果て、どうにかして狸を懲らしめる方法を考えていた。
その日も狸がやってきて、また食料を奪おうとしたとき、老夫婦はついに決意した。
「もう我慢できぬ!」
だが、思わぬことが起こった。老夫婦の家にやってきたのは、狸だけではなく、傷ついた狸の子供だったのだ。老夫婦はその子狸を見て、心を痛めた。
「お前も、こんな悪いことをしていたのか?」
しかし、子狸はしきりに謝り、涙を浮かべて言った。
「私の親が悪いのです。でも、私はこんなことをしたくなかったんです」
老夫婦はしばらく黙って考えた。彼らが知っている狸は、悪意を持った者ばかりだったが、この子狸の真剣な目を見ると、何かが違うように感じられた。
「私たちもまた、何かを誤解していたのかもしれない」
老夫婦は子狸を許し、そのまま家に住まわせることにした。けれど、狸の親が帰ってきた時、老夫婦は再び向き合う決心をした。
「もし、狸たちと共に生きる道を選ぶのなら、私たちにも何かを変える覚悟がいる」
老夫婦は狸の親に話した。
「私たちと共に生きてみないか? ただし、悪戯や盗みは二度と許さない」
狸の親は驚き、そして徐々に心を開いていった。やがて、狸たちは村に住むようになり、老夫婦と共に働くようになった。
「私たちが共に生きる道を選んだことで、山も人も変わっていった」
その後、かちかち山は単なる土地ではなく、狸と人間が共に手を取り合い、共生していく場所となり、村人たちもその変化を受け入れるようになった。
「生きる力を分け合うことが、こんなにも大切なことだとは」
老夫婦と狸たちの平和な日々は、長く続いた——。