昔々、竹取の翁が光る竹の中から美しい姫を見つけた。その姫は「かぐや姫」と名付けられ、やがて成長し、その美しさを聞きつけた貴族たちから求婚されることとなった。しかし、彼女は誰の求婚も受け入れず、難題を出しては断り続けた。
そして満月の夜、天の使いが迎えに来る日が訪れる。かぐや姫は、涙を流しながらも覚悟を決めていた。月に帰れば、もう地上の人々と会うことはできない。しかし、天の使いが言う。
「かぐや姫よ、そなたの心に迷いがあるならば、地上に残る道もある。月の民の掟に反するが、そなたが本当に望むならば——」
かぐや姫の胸に、翁や嫗、そして人々との思い出が去来する。彼女は気づいた。月の世界では不老不死だが、地上では儚い命の中で人は愛し、悲しみ、そして笑う。その営みこそが、美しいのではないかと。
「私は、ここに残ります」
天の使いは驚いた。しかし、かぐや姫の意思は固く、天の羽衣も受け取らなかった。天の使いはやがて諦め、月へと帰っていった。
それからかぐや姫は、人として生きることを選んだ。翁と嫗に孝行し、やがて貴族の一人と結ばれ、慎ましくも幸せな家庭を築いたという。
——そしてある日。かぐや姫は月を見上げ、微笑んだ。
「もし、あの時月へ帰っていたら、私はこの温もりを知らずにいたでしょうね」
その横で、愛する人がそっと彼女の手を握った。
月は静かに光り、地上の姫を見守っていた——。