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第14話 リリスとオルタシア

オルタシアはグロータスに自分が知る限りの拷問を試そうと考えていた。


「さて、これからどうすると思う?」


椅子に手足を紐でくくりつけられたグロータスが恐怖した表情を浮かべる。


オルタシアはグロータスの耳元で、これから行おうとしている残虐行為の内容を伝えた。


その話を聞いていくうちに顔から血色が失われ、騎士の誇りもプライドも忘れ、マルトア殺害の首謀者が誰なのか、それに加担した者たちの名をぺらぺらと口にしていた。それにはオルタシアも拍子抜けしてしまう。


だが、だからといって、オルタシアは彼を許すつもりはまったくなかった。


オルタシアの右手には鉄製の掴みばしが握られていた。グロータスの指の爪を挟んだあとオルタシアは口端に笑みを浮かべる。


「や、やめてくれ……お願いだ」


――――部屋の中で男の悲鳴が響き渡った。


悲鳴が上がる部屋の隣ではシンゲンが森から取ってきた薬草などをすり潰し、塗り薬を作っていた。扉越しから聞こえる苦痛に満ちた叫び声を聞くたびに手を止めてしまう。


「やりすぎだ」


シンゲンはそうぼやいた。


『―――面白そうだね』


ふと、壁に立てかけているジパルグ刀の『雷月』からねっとりとした女性の声が漏れだした。視線を雷月へと向ける。すると黒衣に身を包んだ女性が椅子に座り、頬杖をついいてシンゲンに笑顔を向けた。壁掛けの燭台の光りが彼女の白い肌をより美しく見せていた。まるで絵の中から抜け出してきたかのような幻想的な美しさを持つ美女だった。


「リリス、なんで出てきたんだ」


女性の名はリリス。雷の鳴り響く月の夜に現れた魔女。通称雷月の魔女と呼ばれた女だ。黒魔術に精通し、死をも超越してこの世に留まることができた数少ない魔族の一人でもある。シンゲンと契約しており彼の魂との結びつきにより、具現化することができるのだ。他の者には見えないが、その姿を見ることができる者がいるとすれば死霊呪術師であるだろう。


「あのオルタシアっていう女、あたしと気が合いそうだ」

「お前みたいなやつがたくさんいたら世界は滅ぶだろうな」

「言ってくれるじゃないか。あたしは不機嫌になったぞ」


 頬を膨らませて、腕を組んで見せた。


「あぁー別の男と契約しようかな~」

「それは困る。俺にはお前の力がいるんだ」

「ふふふ。なら、昔のように愛を込めて抱っこしてくれるのなら許してあげよう」


両手を広げて無邪気そうな笑みを見せた。


「なんで、抱っこしないといけないんだよ。俺が」

「あれれ~あたしの力がいらないのかな~」


嫌らしい口調で言う。


シンゲンはこの魔女と契約した。それは力が欲しかったからだ。その時、その瞬間、生きたいと思ったからだ。自分の人生を変えることができる力を求めていた時にたまたま現れた彼女が力を授けてくれると言ったとき迷うことなく契約を選んだ。今思えば、あの頃は自分の弱さに心底呆れるほど馬鹿なことをしたと思っている。後悔はしていないのだが。そんなことを思いながら苦笑いを浮かべているとリリスの顔が迫ってくることにきづいた。いつの間に彼女は目の前に来ていたのかわからないほどだった。長い髪が視界を埋め尽くしている。甘い香りが鼻孔をつく中、彼女は上目遣いでシンゲンの胸に手を添える。


契約をした事実があり、それに応じたシンゲンはリリスの言いなりとなっていた。断ることもできず、大きなため息を吐いたあと、リリスを抱っこする。


「これでいいか」

「ふふふ―――最高じゃないか~。あぁお前の魂の強い力を感じる。また強くなったんじゃないか?」


嬉々とした様子で顔を覗き込んできた彼女に少しだけドキッとするシンゲンであった。見た目は誘惑と妖艶さを併せ持ったような美しい顔だが、中身はどこか子供のようなところがある。それを可愛いと思う時もあるが……。


そして二人はお互いを見つめあったまま動かなかった。しばらく時間が過ぎる頃、オルタシアがいる扉がガチャリと開く音が聞こえてきた。シンゲンが慌てて抱っこをやめる。そのまま、リリスはお尻から床に落ちた。


「ひゃうっ」


何とも言えない変な声が漏れた。その声に驚いて振り向くシンゲンだったがすぐに視線を前に戻す。オルタシアがは当然、リリスの姿は見えていないので、シンゲンの挙動不審さに不思議がっている表情をしていた。


「今、なにか言ったか?」

「いや何も」


冷や汗を流しつつ答えるシンゲンに対して首を傾げるがそれ以上は聞かずにオルタシアはベッドへと勢いよく腰を下ろした。視線をオルタシアがいた部屋へと向ける。そこには椅子に縛り付けられたまま、首を下に垂らし、微動だにもしないグロータスの姿があった。床は血まみれで、拷問の苛烈さを物語っていた。


彼は二度と目覚めることはないだろう。それほどまでに恐ろしい責め苦を受けていた。視線をオルタシアへと戻す。彼女はやりきったというような様子だったが、どこか浮かばれない気持ちが残っているようでその瞳は涙が滲んでいた。


その様子を見ていたリリスがクスクスと笑いながらシンゲンに小声で言う。


「好きな男を殺された人間を見ていると面白いものだな~」


シンゲンはそれにギロリとリリスを睨む。それに怖気づくこともなく、肩をすくめただけだった。


「なぁ、塗り薬ができたぞ」


そう言って塗り薬をもって、オルタシアの近くへと歩み寄った。


彼女は視線を向けるとことなく、「すまない」とだけ言う。


それが何を思っての言葉なのかわからなかった。シンゲンは無言で傷口が見えるように彼女の頬に手を伸ばし、右目の当て布を取り外す。かさぶたとなったところが剥がれ、血がジワリと滲み出てきた。頬を滴る血はまるで涙のようだった。その血を清潔な布でふき取ったあと、傷口を見た。溜まった生唾を飲み込む。眼球には矢じりがあたった痕が深く刻まれていた。もう完全に視力は戻らないだろう。そのことを思うとやるせない気分になってくる。


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