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第9話 夜の闇に

翌日、ルナティタスの別邸にアルデシールの重鎮でもある大臣らが客間に集められていた。


彼から重大な話がある、このことがもしも外部に漏れてしまうと国の一大事に関わることだから、護衛を外して、来てほしい、そんなふうに誘われたのだ。皆は何かあったのかと思いつつ彼の別邸へと集まった。


呼びつけておいて、本人がいないことに大臣らは怪しんだが……しばらくしてルナティタスの使用人が部屋に入って来ると主が少し遅れて来るとだけ告げて去って行った。大臣らは互いに顔を見合わせて、何の話か想像もつかないことからただ黙って待っていたが、誰もが不満を漏らした。


「こんな、時に我々を呼び出すとは……なにを考えているのだ。オルタシア殿下がまだ帰らぬというのに……」


そう不安げにそう漏らす。


いつもなら、オルタシアから蛮族を完膚なきまでに叩きのめした、と報告が入っているはずなのだが、それが無いまますでに五日以上経っている。急いで援軍を出すべきかどうかの議会で議論が行われようとしている真っ最中だというのに……。そのこともまた焦りとなって苛立ちを募らせていた。


一人のふくよかな大臣が貧乏ゆすりをし始めるとその音が室内に響き始める。それに呼応するように他の者達の顔にも我慢の限界が来ていた。そして、ついに耐えかねた大臣の一人が机を叩いた。


「いい加減にしろ!! 我々は忙しいのだ。早く呼んでこい!!」


客間の隅で控えている使用人にそう文句を告げる。使用人が困惑した。そのとき、ようやく客間の扉が開けられルナティタスがくぐって入室する。


「いやはや、遅くなり申し訳ない」


両手を広げると貴族風のお辞儀をしたあと、髪型を気にしながら自分の座る席へと腰を下ろす。嫌気を出しながら大臣らは座っていた席に再び座る。


「で、なんだね、重要なこととは?」


目尻にしわが寄った大臣が睨みつけるように尋ねた。それにルナティタスは深刻な顔で呼んだ理由を告げる。


「単刀直入にお伝えしましょう。残念ながら、あなた方たちはユラン派の者でしたよね」

「それがどうした?」


一人の大臣が眉を寄せた。


「まさか、ユラン王女殿下を女王にする、という話か?」

「わ、我々だけで、会議もせずに話を進めるつもりかルナティタス? そもそもオルタシア殿下がおられる」


ルナティタスが怪しい笑みを浮かべる。


「――――――えぇ。ですので、まず初めに皆様方には、ユラン様を王にするための礎になってもらいたいのです」

「な、なに?!」

「どういうことだ!」


大臣らが驚きの顔で身構える。


ルナティタスが指を鳴らした瞬間、物陰でずっと息を殺していた黒衣を身にまとった禿頭の男とその部下らが短剣を持って飛び出してきた。


大臣らは驚きつつも帯びていた剣を引き抜く。


「謀ったな!! ルナティタス!!!」


剣戟が一瞬起きたあと、悲鳴が無数にあがり、ルナティタスの客間の絨毯が血に染まった。


折り重なるように絶命している大臣らを見下ろし頭痛がするように頭を抱える。


「あぁ、なんということだ。余のお気に入りだった高級絨毯が汚れてしまった……」


大臣の一人を蹴りつける。呆れた声で部下に尋ねる。


「オルガン。お前は暗殺者なのだろ? もっと綺麗にできないのか? こう血が飛び散らないように」

「……反撃してきた、仕方ない」

「まったく。まぁ、いいでしょう」


乱れた前髪を整える。


「これで白狼騎士団とオルタシアの仕業にすれば、オルタシア派の者たちも態度を変えるでしょう」


ルナティタスの狙いはまず、ユラン派の大臣らの暗殺である。


ユラン派の大臣らの死によって王位継承を狙った争いに繋がり、先に仕掛けてきたオルタシアを排除すべきという口実を作ることができた。


次に空いた大臣席に自分が信仰する星空教会の信者を入れ替える。そうなれば、星空教会の勢力は一気に拡大することができる。


ルナティタスはこの日早速、暗殺事件が起きたと王都ルアンに広め、オルタシアと白狼騎士団が逆賊になった偽りの情報を流した。民は単純なもので、それをすぐに信じ込む。


残虐な性格と戦乱を好む彼女ならやり兼ねないと前々から不安に思っていたからだ。


それに慕っていたマルトアまでを彼女が殺したとなれば疑いようがない。ルナティタスは言葉巧みに民を洗脳し一気にユラン派を支持する声が大半を占めた。


そして、悪女オルタシアを吊るし首にすべきという声もあがった。ルナティタスにとって計画通り。


あとは、ユランを女王にし自分は宰相になることでアルデシールの影の王とになれる。そうなれば、やりたい放題だ。


軍備強化と異民族の討伐に魔女狩り。他国への領土と利益を求める戦争、彼にはやりたいことが沢山あり、早くしたいと身体がウズウズしてしまう。




♦♦♦♦♦




一方、オルタシアはというと、北方に広がる深い森へと逃げ込んでいた。


追っ手は振り切ったがオルタシアの容体はよくなかった。リルは眉を八の字にして、ミナにささやく。


「どうする……?」

「そうね……まずは、手当てしないと」


ミナは心配した目で息を荒して寝込むオルタシアを一瞥する。


彼女は怪我で熱を出していた。このままでは破傷風にもなりかねない。焦るようにリルは荷袋から地図を取り出してミナの目の前に広げた。


自分たちがいる森のある一点に指を差して目を細める。


「確か、この先に村があったはずだ」

「あら。街道からいけるみたいね」


リルは森の中に小さな村があったことを思い出した。


ここから五キロほど行かなければならない。少し遠い。でもそれ以外に当てはなかった。


森を出て、他の街にいくという手もあったが、それではルナティタス側の追っ手に見つかる可能性がある。


リスクは避けたい。


オルタシアをむやみやたら動かすと命に関わるからだ。悩んだ結果、二人はその村に向かうことを決めた。

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