――――――偉大なる女王の寿命は尽きようとしている。それは新たなる戦争の始まりを意味する――――――。
アルデシール王国。ユアドラド大陸東部地方の山間に栄えたその国は豊かな自然と鉱物資源に恵まれ栄えていた。アレデシール王国では初代国王が女性だったということで、女性が王国が治めることになっていた。
初代から継承は順調に流れ、20代目に玉座譲られようしていた。
だが、栄光ある女王の血脈が揺らぐ事態に陥っていた。それは第一王女の病死がきっかけだった。第一王女アレデシール・ベアトリアは生まれつき病弱で毎日のように熱を出していた。幼少期から手がかかる子だったのだが、手がかかる子こそ溺愛してしまう。それに彼女はとても優しい心を持っていた。
その優しさは民からの支持も熱く、次期女王として期待されていた。その彼女が流行り病でこの世を去ったのだ。女王も病で長くないという時に大臣らは焦り、王宮内で荒れた。この国は長年、蛮族の侵攻に悩まされていた。蛮族と戦いが始まってから既に100年も経っている。それにもかかわらず、未だに蛮族の脅威に脅かされ、決着がつくことなかった。今、この瞬間にも蛮族が襲撃してくるかもしれないという不安があった。そのため、なによりもいち早く、国の安定が重要になる。
しかし、有力な候補がいなかった。
ベアトリアの下にまだ、二人の妹がいるのだが、これがまた問題ありなのだ。第二王女オルタシアはとても優秀だった。政治面を抜いては。彼女の武芸はアルデシール最強と言われるほど、常勝で、頭が切れる。戦術も優れており、100人のアルデシール兵で10000の蛮族を撃退したという逸話を持つ。それも逃げ惑う蛮族に追撃をかけるほど、相手に慈悲を持たず、尚且つ慎重で、ここぞとなれば、摘めるものは全て摘み取ってしまおうという大胆さも兼ね備えている。まさに最強と呼ばれるに相応しい存在だ。
だが、オルタシアは国の一大事というのに玉座を継ぐ気はまったくなかった。彼女の目は戦場にしかない。戦いこそが彼女にとって全てなのだ。蛮族を撃退してくれることには有難いことなのだが、王女であるという自覚がなさ過ぎる。
次に三女ユランだがこれが一番最悪だ。彼女は逆に王女としての権限を悪用している。常に誰かを使って、自分はなにもせず、自分の部屋でごろごろと寝て過ごすだけ。外出するのは、新しいお菓子や服を買いに行くためだ。
そんなときに時を狙ったかのように蛮族が北の国境近くに流れるシユエン川の川沿いにある古い古城を占拠した、という報告が王宮内に入った。王の間に玉座が空いた状態のまま大臣らが集まってひそひそと話合いをしていた。
「……アレラ卿、聞いたか? 蛮族共がまた攻めて来たとか」
「なんと?? 部隊の再編が早過ぎるのではないか? まるで訓練を受けた軍隊並みの速さだ」
「……有り得ん」
北を中心に活動する蛮族が最近になって、妙な動きをしていた。活発的な攻撃が毎日のように行われ、その数も日に日に増していることに大臣らは怪訝していた。
「オルタシア殿下が討ち漏らしたといっても数百程度のはず」
「あぁ。あのお方は逃げる相手に油をかけて火を放つほどの徹底ぶりだからな。到底、2000もの軍団が集まるはずがない」
「やはり何かの罠なのだろうか……?」
「そんなもの無視すればいい。どうせ、偽情報だ。昨日今日で2000も集まるはずがない」
「しかし、このまま野放しにするわけにもゆくまいて。もしも国内に侵入してきて、領土を荒らされては困る。なんとかせぬと。国の威厳にもかかわるぞ?」
蛮族はどこかの国の正規軍ではない。正規軍でもない蛮族に苦戦していると他国に知られたら、どさくさに紛れて鉱物資源を狙って攻め入ってくる国が出てくるかもしれない。それだけは何としても阻止しなければならないのだ。
顎鬚の大臣が他の大臣らを見渡す。
「……誰が討伐隊を出す? 私はご免だからな」
「それは私もだ。金と手持ちの兵士を失うのは避けたい」
そこで大臣らの会話が止まり喉を唸らせ悩んでいた。そんな中、王の間をガチャガチャと鉄の音をさせて、颯爽と現れた茶髪の女が話しかけてきた。
「――――――なんだ、また蛮族か?」
茶髪の女性の声に大臣らが驚いた顔で振り向く。
「こ、これはこれはオルタシア殿下。もうお帰りで?」
その問いにオルタシアは嬉しそうに微笑む。
「あぁ南の国境沿いに侵攻してきた蛮族を血祭りにあげてきたぞ。2、3人ほど逃げ帰ったようだが――――」
少し悔しい声音をする。
「――――まぁ仕方ないだろう」
軽い口調でそういうオルタシアに大臣らは心強さと同時に恐ろしさも感じた。人を殺すことになんの躊躇いのない彼女は戦場では英雄だろうが、王宮内では殺人鬼だ。彼女が向けてくる冷酷な目がなによりもの証拠だった。味方なのに思わず、顔が強張ってしまう。
「ところで、さっきの話は大方、聞かせてもらった。私が早速、討伐しに行こう」
そういうと髪をいじりながら身体の向きを変えて、早速出陣しようとした。それに大臣の一人が苦笑しながら呼び止める。
「殿下、お待ちを。先程、お帰りになされたばかりでは? もう少し、お休みになられてはいかがでしようか?」
それに振り返ることもなく、手をひらひらさせながらオルタシアは答えた。
「戦場が私を呼んでいるのだ。敵を皆殺しにしろとな」
大臣はその冷血な言葉に青ざめる。
そして、誰もが思った。
オルタシアが女王になってはいけない器だと。彼女が居なくなったことを確認した大臣らは眉を顰めた。誰もが考えていたことを声に出したのは、アルデシールの重鎮であるルナティタスだった。見た目は白髪交じりの黒髪。後ろと横を髪を刈り上げて、立派な口髭がある。彼は今年で六十歳。彼がほとんど、国を動かしているといってもいいだろう。今も女王の代わりとして、国を運営していた。
「――――やはり、あのお方は危険過ぎる。そう思わないか?」
「あぁ確かに……」
「そうだな。あのお方が女王になれば、かならず国は滅ぶ。外からも中からも彼女への恐怖は大きい」
ルナティタスは確信を得たのか大臣らを見渡したあと、小さくその場でしか聞えないほどの声音で言った。
「あのお方には―――――国のために消えてもらおう」
それに大臣らは目を見開いた。一体なにを言っているのか、と。
しかし反論する者は誰もいなかった。誰もが仕方が無い、とそうつぶやくだけだった。
「蛮族との闘いで戦死したとすればいい。あとは、動かしやすいユランに王位を継がせる。それなら国は安泰だ。異論はあるかな?」
誰もが腕組をして頷いた。否定がないということは了承した、ということになる。ルナティタスは念を押した。
「このことは誰にも言ってはなりませんぞ?」
「あぁ、わかっている」
「国の為だ……」
大臣らの賛同を得たルナティタスは怪しい笑みを浮かべた。