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第3話 戦場の悪魔 

 これは数日前の話だ――――――大陸南部、乾燥した荒野の中で激しい戦いが繰り広げられていた。喚声と悲鳴、怒号が入り混じり、地響きがする。


 南方蛮族らが突如、国境線を越え、アルデシール王国内に攻め入ったのである。


 数はおおよそ5000ほどで、それに対して迎撃に出たアルデシール軍ととある白銀の鎧をまった騎士団総勢1000ほどがそれらと対峙し、戦闘を開始していたのである。


 数でものをいわせてきた蛮族らがアルデシール軍の防衛隊を中央から食い破り、乱戦へと持ち込んできた。


 乱戦となるとアルデシール軍は隊列が維持できず、次々にアルデシールの兵士たち蛮族の餌食になっていく。


 増援にきた白銀の騎士団の手勢はたった1000。それだけで、勝てる見込みはどこにもなかった。そう思えた。


 蛮族らも同じ考えで、負けるはずがないと自覚し、攻勢を強め、アルデシール軍と白銀の騎士団を包囲しようと動いていた。


 勢いに押されるアルデシール軍と白銀の騎士団は完全に包囲されるのを避けるため、後退を始めていた。


 はたから見ると、負け戦のように見えた。


 そんなとき、突然、風がざわつき、強い風が蛮族らの頬を通り抜ける。


 何かを感じ取った蛮族らは一斉に動きをピタリと止めた。


 喚声と怒号で騒がしかった戦場が静寂に包まれたのである。


 蛮族らは執拗に周囲を見渡し始めた。


 戦場に風が吹くところに悪魔が現れる。そいつがやってきた時、風はざわつき、そして、悪魔に味方する。


 風が自分たちに向かって吹くのならもう奴がそこにいる、見つかる前に逃げろ、という噂話を耳にしたことがあった。


 それが今の状況に似ている、と察した蛮族らが顔を青ざめる。


「来るのか……あいつが……?」

「クソ……ここにはいないんじゃないのかよ!」


 蛮族らは互いに顔を見合わせて、どうするかを相談し始める。


 そのタイミングを見計らい、白銀の騎士団とアルデシール軍の隊長格らが一斉に


 撤退の命令を出し、兵士らはそれに従うように大盾を構えつつ、後ろへ下がっていった。


 蛮族らにとっては攻め込むチャンスだったがそれをしなかった。


 なぜなら、白銀の騎士団の隊列からひょっこりと出てきた茶髪の女騎士が置いていかれたかのように一人立ち尽くしているからだ。


 その女は片手に長剣を持ち、純白の軍装を身に纏っていた。戦場に鎧も身に着けずに来るのかよ、と思うが、蛮族らはその女性が何者なのかを知っていたため、動揺だけが蔓延していた。


 癖のある長髪を風になびかせながらその女性は堂々とした態度で大軍を恐れることなく敵を待ち受けている。楽しそうにクスクスと笑みを浮かべていた。


 その不気味さを帯びた相手に冷や汗を流して強張った南方蛮族らは距離を置く。


 少し間を空けてから彼らは憎しみを滲み出して罵声する。


「こ、この悪魔めっ!!! 俺らの家族をよくも殺したな!!」

「お父さんをよくもッ!!!」

「殺してやる!!! お前をぶっころしてやる!!!! 娘の仇だ!! お前に苦しみを味わわせてやる!」


 自分に対しての怒声に美貌を持つ茶髪娘はニヤリと笑う。


 大軍を目の前にしても彼女は余裕だった。


「……犬共がよく吼える。私を殺したいのなら、どこからでもかかってくるがいい」


 蛮族らを見渡したあと一笑してから、呆れるようにつぶやく。


「まぁ――虫のように湧いてくるお前らなど、私の敵ではないがな」


 挑発された蛮族らは怒り狂う。


「あいつをぶっ殺したやつに金貨500枚だッ!」

「ほぉ? 蛮族にしては金持ちだな」


 高額な懸賞金をかけられた一人の女性に対して、蛮族らはと牙を向け駆けた寄ってきた。


「オルタシア!!! 死ねぇええええ!!!」

「この悪魔めえええええ――――!!」


 オルタシアと呼ばれた女性がこれだから低脳は困るとつぶやいたあと、左手を相手に突き出し口ずさむ。


『―――――“風の斬撃”――――――』


 瞬間、彼女の目の前に風の塊が集まると蛮族らに向かって放たれる。


 空気を裂くような音と共に蛮族らの身体を綺麗に切断した。


 血肉が飛び、一瞬で、多くの蛮族をバラバラにする。


 乾ききった土が鮮血に染まり、辺りは地獄絵図とかした。


「ひぃいい??!!」

「こ、これが……魔法の力……??」

「お、臆するな!! 散開して四方を攻め立てろッ!」

「進めぇええええ――――!!」


 散らばっている仲間の死体を踏み越えて突き進んでくる蛮族らにオルタシアは感嘆する声を出す。


「ほぉ。仲間の屍を踏み越えてでも、私を殺したいか?! 面白い。これだから戦いは大好きなのだ!」


 オルタシアに向かって剣を振り下ろしてきた赤髭の蛮族の一人を風の塊をぶつける。


 男の胴体が二つになり地面にドサッと落ちる。


 次に右側から来た男をオルタシアは剣先を喉元を貫く。


 引き抜いたあと、蹴りつけ、近くにいた別の男をふりむきざまに斬りつけた。


「え?」


 相手が崩れ落ちるとき、生温い血が噴出しオルタシアの顔にかかった。


 それに彼女は薄気味悪い笑みを見せた。


「ハハハハ………弱い。弱いぞ。お前らは蛆虫のようで――――」


 話している最中でもオルタシアの攻撃は止まらない。


 また一人の蛮族を斬り伏せる。


 足元に息のあった男に気がつくと踏みつけ、言葉を続ける。


「―――――――ゴミ同然だな!」


 そういって、踏みつけた男を見下ろす。


「おのれ……オルタシア……呪ってやる……永遠にの――――」

「そうか、それは楽しみだな。待っているぞ」


 足元にいた男の頭上から剣を突き立て、とどめを刺す。


 頭蓋骨が割れる音がし、息の根を止める。両側面から蛮族らが迫って来た。


 それに、オルタシアは新たに魔法を唱える。


『――――――“風刃の嵐”――――――』


 すると、彼女を中心に小さな竜巻が舞い起きる。


 やばいと思い足を止めた蛮族らだったがもう既に遅かった。


 オルタシアが両手を広げた瞬間、無数の衝撃波が相手に向かってぶつかっていく。


 悲鳴が起きたあと、一瞬で戦場は静かになった。


 折り重なるようになって倒れる蛮族らを見渡したオルタシアは長剣の血を払い取った。


 蛮族らはまだ残る。


 彼女の圧倒的な強さと恐ろしくなり、硬直してしまったのだ。


 目の前で起きた惨劇に震え上がる。


 思考が止まった相手に対して、オルタシアは自ら敵の中に駆け込み殺戮を繰り返す。


「ひぃいいい?!!!」


 盾の後ろに隠れた蛮族をオルタシアは膝辺りを斬りつける。


 痛みで、盾が下りた瞬間を狙って、喉を斬りけ、肩口にまた斬りつけた。


 不意を突こうと巨漢の男が大斧を振り回しながら彼女へ迫った。


「うおおおおおお!!! 覚悟ッ!」

「むさい奴は嫌いだ。特にお前のような筋肉ダルマは大嫌いだ。気持ちが悪い」


 オルタシアはなぜか、彼に敏感に反応し、巨漢の男を細切れにするかのように斬りつける。


 倒れたあとでも、斬りつける彼女の異常さに戦慄が走る。


 蛮族には混乱などを収拾できる将たる器が居ないので、少し突けば、敗走することを何度も戦ってきた経験でオルタシアは知っていた。


 だが、相手を敗走させ、逃がすためにそうしたのではない。


 彼女は別の目的があったのだ。蛮族らは我先にと背中を見せて逃げ出した。


 それにオルタシアは右手をあげる。部隊に号令をかけたのだ。


 後方で待機していた彼女の部隊が弓を構える。矢には油を染み込ませた布が巻かれている。


 それに火をつけ、彼女が手を振り下ろした瞬間、一斉に蛮族らに向けて放たれる。


「かはっ」

「あぁああああああ熱い、熱いいいいいいいい――――――!!!!」


 悲鳴の声にオルタシアは肩を大きく揺らし、大笑いする。


「アハハハハ―――――――!!! いいぞ、もっと叫べ、もっと喚き散らしてみろ!!」


 オルタシアの残虐はこれでは終わらない。指をパチリと鳴らし、少し弱めの風を吹き起こす。


 燃え盛る炎に空気を送るためだ。火矢と共に、火の海が蛮族らの背中を追い、津波のように飲み込む。


 運良く火の海から逃げ出せた蛮族らは、さらに彼女の剣から放たれた真空波によって断ち切られる。


 あれだけの大群が一瞬にして、全滅という恐ろしさには、友軍からも恐れる声が漏れた。


 斥候を放ち、周辺を捜索し、蛮族の全滅を確認したオルタシアは身体の向きを変えて、大きく息を吐いたあと、遠くの方で待っていた部隊に告げる。


「よし、帰るぞッ!」

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