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第13話 特別緊急任務

ただ、それならなぜ、わざわざギルド、それも自分にわざわざ依頼をするのか疑問に感じた。何か特別な事情があるのだろうか、と睨んだ。


テレンシアの疑問に対して、答えるようにヨシヒラが答える。


「……実は、拙者の殿より、ユウヅキ様を危険なダンジョンから連れ戻してこいと仰せつかりました」


それで大体の予測はついた。


大方、親ばかな殿様が可愛い一人娘を心配するあまり、連れ戻して来いと命令したのだろう。


そして、家臣であるヨシヒラという男がアラカワ家のメンツを守るためにも秘密裏に連れ戻そう考えたのだろう。


「なるほど。それで私ですか」

「さようでございまする。貴殿はエスドラドでは有名な冒険者だとか」

「元です、元」

「それでもSランク冒険者。Aランク冒険者の10人分に匹敵する力量をお持ちだと聞きまする。どうか、ユウヅキ様を連れ戻していただきたいでござる」


それにテレンシアはゼルセンを見る。


「……ギルド長、ちなみに聞くんですが、これは特別優先任務、さらにいうと単独限定ということでいいんですよね?」

「あぁ、その通りだ」


特別優先任務とは、通常のクエストよりも報酬が高く、達成すればギルドの評価が上がる。いわばボーナスクエストだ。


しかも、今回はその姫様を連れ戻すだけで、相当な額の報酬が期待できる。


テレンシアは顎に手を添えて考えた。


(―――まぁ、お小遣い稼ぎにはなるかな)


「分かりました。引き受けましょう」


ヨシヒラの顔が明るくなった。


「本当でござるか!?」

「えぇ、ただし、条件があります」

「なっ、なんでしょう? 拙者はできることならなんでもやりますぞ!」

「今回の依頼の場合、ギルドを一応は通してはいますが、正規ルートの依頼からは外れた行為になります。その場合、事務手数料を割り増しでいただくとともに、受注者に対しては成功もしくは失敗という結果に対して、責任取る必要がなくなります。つまり、失敗しても責任は問えないということです」

「そっ、それは……」


ヨシヒラの顔色がみるみると青ざめていく。失敗は許されられない。しかし、武家としての名声もある。下手な真似はできない。


「そもそも危険なダンジョンへ単独で入る時点で、死んでも仕方がありません。それに……そのユウヅキ様は冒険者ギルドへの登録、終わってますか?」


それにヨシヒラは視線をそらした。世界各地に存在するダンジョンへ入るとき、必ず、冒険者ギルドへの登録、そして、入るための目的や理由を明確にしなければならないのだ。これは、ダンジョン内で取れる貴重な鉱石、または食材の転売や横領をさせないためである。


「無許可でダンジョンへ潜った場合、すべて犯罪者扱いになります」

「わっ、分かっており申す! ただ、今回ばかりは緊急を要するのです! 何卒、この通り!」


ヨシヒラは頭を下げた。


「その部分に関してはわたしは何もいいません。ギルド長が判断されます。わたしはできる限りのことはしますが、死んでいても責任は取りませんからね」


それにヨシヒラは頭を抱えるように声を絞り出す。


「その時は……その時は……拙者が……この命で、責任を負いまする」


腰に差している短刀を強く握りしめる。それにテレンシアは大きく息を吐いてから言った。


「……わかりました。では、準備が整い次第、すぐに向かうといたします」




♦♦♦♦♦




翌日、テレンシアは自宅で装備を整えていた。鋼鉄製の手甲、鋼鉄製の脛あて、鋼鉄製の胸当て。どれも一級品だ。そして、長持に入れてある古びた長剣を手に取る。鞘にはフェレン聖騎士団の物を示す刻印と、『女神』の名前が刻まれている。これはかつてフェレン聖騎士団にいた彼女が使っていた愛剣だったものだ。


テレンシアはその剣をじっと見つめて鞘から少しだけ抜く。すると、錆だらけで刃こぼれを起こしているものの、鈍色の光を放つ美しい輝きがあった。しばらく見つめた後、テレンシアは思いつめたような顔をして、再び鞘に戻し、長持の中へとしまう。代わりに壁に乱雑に立てかけられていたどこにでもあるような安物の剣を一本手に取った。革ベルトに取り付け、マントを羽織る。


「……よし」


テレンシアは気合を入れ、そのまますぐにエスドラド冒険者ギルドへと向かう。ギルドの建物に入ると冒険者たちがざわついた。


「おい、誰だあれ?」

「みたことない冒険者だな」

「おい、あいつ、Sランクの証をつけてるぞ?!」


テレンシアはそんなことを気にせずにまっすぐ受付カウンターへと向かった。同僚のミアは書類の作成に夢中になっている様子で、テレンシアが目の前に立っていることに気が付いていない様子だった。


「ミア」

「何? テレンシア、あ、ちょうどよかった。この依頼書の意味わかんないんだよねー。ちょっと見てもらって――――」


ミアはテレンシアに作成途中だった依頼書を渡そうと視線を上げた瞬間、テレンシアの姿を確認すると大きく目を見開いた。そして、身を乗り出す。


「ちょっ、あんた!? なっ、なんなのよその格好! どっ、どうしたのよそれ!?」

「あぁ、これ?」


テレンシアは今着ている服を見せつけるように両手を広げる。


「緊急の依頼だ。私が自らダンジョンへ向かう。受付をしてくれないか」

「……えっ!? えぇぇぇぇぇぇ???」

「秘匿事項一項が適応だ。この書類に押印だけもらいたい」


そういうとテレンシアは懐に四つ折りにした書類をミアに渡す。ミアは驚きつつもそれを受け取り、目を通していく。


そして、なるほどね、とつぶやくと承認の押印を押した。


「いいわ。これで大丈夫よ」

「助かるよ」

「――って、まてーい!!  あんた、まさか今から行くつもり?!」

「そうだけど、何か問題でも?」

「大ありよ! 馬鹿なこと言わないで! 見てよ!! この書類の山!!!」


ミアが指さす先にある依頼書の束を見てテレンシアは苦笑いした。ほかの受付嬢も気が遠くなる作業を行っている。どこも人で不足で、今にも爆発しそうな勢いだった。


「あんたが、ぜんぜん来ないって思ったらこういうこと!!?? あたし、残業確定じゃないのよ!!!」


と受付カウンターをペシペシと叩く。


「残業確定って……私の心配はしないのか?」

「するわけないじゃないのよ!! あんたSランクでしょ??? てか、こんな意味わかんない依頼、あんたじゃなくてもできるわよ!!」


テレンシアはため息をつきながら、困った顔をした。


「そうはいっても、私は冒険者なんだ。一応。ギルド長の直々の依頼を断ることなんてできないよ」


テレンシアはそういうが、実は断ったらクビになるような気がしていた。職を失うわかにはいかないのだ。それに、今回はジパルグ国の大名からの依頼でもあり、ギルド長はテレンシアが断る可能性を考慮していなかった。


「あのじじぃ。許さねぇ。明日が休みだというのに……闇討ちしてやりてぇ……」

「ミア、聞こえてるぞ」

「うっさい。このクソ忙しいときに……うちのトップエースを引き抜くなんて……」


拳にした手がプルプルと震える。


「……すまない。私のせいで迷惑をかける。じゃあ、あとはよろしく」

「あっ、こら待ちなさいよ!!」


テレンシアはミアの声を無視して足早にギルドを後にする。


「くそぅ。覚えておきなさいよ、もぉ!!」


そこに次の待機者が恐る恐る歩み寄って尋ねた。


「あのーこの書類にサインを……」

「うっさいッ!! さっさと出せやおらぁ!!!」

「えぇ……キレられた……」


若い冒険者はとばっちりを受けるのであった。

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