ラディアは悔しいそうな表情を浮かべ、拳に力が入った。そんな様子を見ていたローランはあることが疑問に感じた。
30階層主が今、どうなっているかだ。
しばらく黙って聞いていたダリアナが口を開く。
「30階層主はまだ誰も倒せていないんだ。というより、誰も挑もうとしない」
それには驚いた。たくさんの冒険者が毎日のように潜って、モンスターが落とす魔石を回収し、生計を立てている。なら、30階層主を倒したらどれだけの報酬が得られるのか。
挑まないことに疑問する。ローランだったら迷うことなく、挑んでいるはずだ。
「どうして? 挑まないんだ?」
「決まってるだろ。世界最強とも言われた精鋭部隊、フェレン聖騎士団100人を一瞬で、全滅させた相手だぞ。テレンシアさんですら、歯が立たなかったというし。そんな相手に誰が挑もうと思う?」
「なるほど……そんなに強いのかそいつ」
ラディアが手を組んで、考え込む。ラディアは絶対に勝てないとは思えなかった。精鋭が全滅したとはいえ、それは不意打ちされたからだ。なら、万全を期して、挑めば結果は変わっていたのでは? そう考えると答えはそう。やってみなければ、わからない、だ。
「それでだ。ローラン君。我は思うんだよ。いまだに30階層に君臨し続ける巨人をどうにかして倒せないかと……」
そこでラディアは一度話を止めてた。そして真剣な顔つきに変わる。
「モンスターには必ず、弱点がある。生命体である限りだ。弱点さえ分かれば、なんとか勝てるかもしれない」
その考えをもっていたのはラディアだけではなく、ダリアナも同じだったようだ。
「団長、それはあくまでも可能性の話でしょ?」
「あぁそうだ。可能性の話だ。だが、これはフェレン聖騎士団として、なんとしても成し遂げなければならない責務だ」
ラディアの拳に力が入る。30階層に君臨し続ける巨人をこのまま野放しにしておくことがラディアにとって、不安でしかなかった。謎に満ちたダンジョンでは何が起きるのか、誰にも予測がつかない。仮にもし、ダンジョンから地上へと這い上がってくることがあれば……。エスドラドの街は壊滅的な被害を被ることになるだろう。それはあくまでも個人的な推察に過ぎない。そのため、口にはしなかった。
「我は近々、決死隊を編成しようと思っている」
その言葉を聞いた時、ダリアナは驚きを隠せなかった。
決死隊、その意味は命を捨てる覚悟をした者だけで構成し、帰還を前提としない部隊を指す。
「本気なのか? 団長」
「もちろんだ。これは我が騎士団としての総意でもある。この手で奴を討ち果たしたいのだ」
「気持ちは分かるけどよぉ~、いくらなんでも危険すぎるぜ」
「分かっている。だから、決死隊は少数精鋭とする。それならいいだろう?」
「確かにそうだけどさ……」
「それに、もし、あの巨人を倒せたら……我らも安泰となる」
「じゃあ、俺も連れて行ってくれよ! 俺、弱点を見つけてやるから!」
その意気込みを聞いて、ラディアは笑みを浮かべる。
「それは頼もしい限りだ。だが、すぐには集まらないだろうから、その時までに君には強くなってもらわないとな」
「おう!任せてくれ!」
握り拳を胸にドンッと当てる。それを見ていたダリアナは苦笑いする。
「おいおい、その前に冒険者にならないとダメだろ?」
「あ、そうだった」
本当に忘れていたような顔をした。それにダリアナは呆れてしまう。
「お前……てか、Fランクすら怪しいステータスだったけど」
「う、うるさいなぁ~。これから、これから強くなるんだから大丈夫だろ!? こーパパッとSランクになってやるさ!」
ダリアナは救いようのないバカだな、と小さくつぶやいた。その言葉にラディアも苦笑いした。聞こえなかったことにし、話を切り替える。
「なぁ、そろそろ、腹が減ったころじゃないのか?」
「お、言われてみると確かに」
そういうとローランの腹の虫が鳴いた。
「ふっ。ちょうどよかったみたいだな。これも何かの縁だ。我がおごってあげようじゃないか」
「え!?マジで!?」
それにダリアナがローランの肩に腕を回し、もたれかかってきた。
「よかったじゃん。団長が直々に奢ることなんて滅多にないことだぞ」
「ほんとか?!」
ローランの顔がパァーっと明るくなった。
「うむ。我のオススメの店に行こうではないか!」
胸を張ってそういう。
「げっ?! あの店かよ」
ダリアナが嫌そうな顔をして言った。ラディアはその反応を見て小首を傾げる。
「どうした?」
「あ、いや、なんでもない」
「では、行くとするか!」
ラディアは執務机に手をついて、立ち上がり、部屋の扉へと向かう。ローランも後に続いた。しかし、ダリアナは立ち上がろうとはしなかった。それに不思議に感じたラディアは振り返り尋ねる。
「ダリアナは来ないのか?」
「あーえっと……あたしは……そ、そうだ。まだ仕事が残っているのでここで失礼するよ! んじゃっ!」
なぜか慌てた様子で、彼女はどこかへ走っていってしまった。
「……変な奴だな」
「まぁいいだろう。さぁ、行こうではないか」
「ああ」
ラディアに促されて二人はフェレン聖騎士団エスドラド支部から出て、夜の街へと繰り出すのだった。