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第8話 ラディアとの再会 その2

ラディアはそう嘆くようにつぶやいた。


「どういうこと?」


ローランは尋ねるとラディアは考える素振りを見せたあと、立ち話もあれだからと、自分についてくるように告げる。


その提案を承諾したローランはラディアの後をついていくことにした。大通りをしばらく進み、どこへ行くのかと思っていると予測もしていない場所にたどり着いた。


レンガ造りの建物で、どこか教会に似ていた。その周りをぐるりと鉄の柵が覆っている。入り口にも鉄格子の扉があり、そこにフェレン聖騎士が守りについていた。


かなり厳重な場所にローランは尋ねる。


「ここは?」

「ここは、フェレン聖騎士団のエスドラド支部だ」


よくみるとその近くには冒険者ギルドの建物もあり、踊り子停も見えた。かなり近くにあったが、これまで意識して見ていなかったせいか、気づかなかった。


ラディアの姿を見た門の守りについていたフェレン聖騎士が敬礼する。


「おかえりなさいませ。団長殿」


それにラディアは返礼する。それと同時に鉄格子の門がゆっくりと開いた。


門をぐぐり、そのまま庭園のような場所を通り、建物の中へと入る。中へ入ったらそこにはフェレン聖騎士らが至る所におり、忙しなく動いていた。


声と声が混ざり合って、騒々しかった。ラディアの存在に気付いた若いフェレン聖騎士が駆け寄ってくると敬礼する。それに返礼したあと、彼は報告してきた。


「報告! アルダクトの街にて、新たなダンジョンが発見されたとのことです」

「ふむ。規模は?」

「エバースの報告では10階層程度だ、そうです」

「新モンスターはいたのか?」

「いいえ。エスドラドに出てくるモンスターと変わりはありません。階層主もゴブリンキングだったそうです」

「なるほど……新しい発見はないということか。わかった。ではこのまま冒険者ギルドに通達をしておけ」

「了解です!」


指示を受けたフェレン聖騎士は一礼したあと、すぐにその場から離れていった。


その様子を見ていたローランは、ラディアに尋ねた。


「一つ、疑問なんだけど、ダンジョンごとに出てくるモンスターって違うんじゃないのか?」

「お前もそう思うだろ。だが、そうじゃないんだ。ここ数年の間に、数百ほどのダンジョンが見つかっているが、そのすべてが、出現するモンスターは階層によって決まっているんだ」


二人の会話にダリアナが割り込んで、ある仮説を話始めた。


「おそらくだけど、この世界には、もともと一つのダンジョンしか存在していなかったんじゃないかと思うんだ。そして、数百のダンジョンは横軸でつながっていて、ダンジョンから別のダンジョンへと移動できるんじゃないかってね」


ローランはダリアナが言っていることが、難しすぎて頭が追い付いていなかった。自分がバカだと悟られないようにと理解したように頷く。ダリアナは両肩を竦めた。


「まぁ、あくまでも仮説にすぎないけどな」

「だから我々フェレン聖騎士団と冒険者ギルドが謎の解明に乗り出しているのだ」


ラディアの言葉を聞きながら、ローランはこの世界の仕組みを理解しようと必死になっていた。


しばらく歩き、とある部屋の前にたどり着く。そこでラディアは扉を開けると二人を招き入れた。そこは応接室のようにテーブルやソファーなどが置かれていた。


促されるまま二人は向かい合うようにして座ると、ラディアが口を開く。


「さて、まずは歓迎しよう。ようこそ、夢と希望、そして、ロマンあるエスドラドの街へ」


ラディアはそう言うと笑みを浮かべた。応接室にフェレン聖騎士が紅茶を運んでくると、三人はそれぞれ口に含んで喉を潤す。それからラディアは本題に入ることにしたようだ。


「我が教え通り、テレンシア様会いに行ったんだよね」

「あぁ。あんたが言った通り、16歳になって、テレンシアに会いにいった」

「そして、追い返された」

「そうだよ」

「ふむ」



ラディアは腕を組み考え込むような仕草をした。自分も信じられない、そんなような様子だった。


そして、おもむろに話し出す。


「我が師、テレンシア様はかつて『来る者を拒まず、去る者を追わず』といった方でね。戦争孤児や孤児院から子供たちを集めて育てていた。フェレン聖騎士の何人もテレンシア様のおかげで、騎士になれた者もいる。そのうちの一人が我ということだ」

「ラディアが?」

「あぁ、我は戦争孤児だ」


それには驚く。目の前にいる凛々しい顔立ちの女性が戦争孤児だったとは到底思えなかった。話し方も品があり、教養もある。


「そんな我を引き取ってくださったテレンシア様に恩返しと思い、従者として、幼いころより傍にいた。しかし、ある日、テレンシア様は突然、育ててきた我とほかの者たちを捨てたのだ。生活できるように金貨を置いてな」

「ラディアも捨てられたのか……」

「我はそうは思わない。しかし、ほかの者たちは捨てられたと思っている」


ローランはその言葉を聞いて、少しだけ胸を痛めていた。もし、自分の親にそんなことを言われたら、きっと耐えきれないだろうと思ったからだ。


ラディアは表情を曇らせた。


「なぜ、そうしたのか。我にはわからないが、あの時の事件が関係しているのではないかと予想している」

「あの時の事件?」

「君は知っているか、第フェレン聖騎士団第32調査隊がテレンシア様を一人残して、全滅したことのこと」

「いや、知らない」


ローランは辺鄙な村の出だ。世界がどう動いているのか、世の中の出来事なんて、全く知らないし、聞いたこともなかった。


「なら、我が知る事件の内容を話してあげよう」


そう前置きすると、ラディアは語り出した。


――今から約3年前、エスドラドの街の近くにあるダンジョンの『メンディア』の階層調査にフェレン騎士団第32調査隊が派遣された。


メンバーは総勢100名ほどで、騎士団長として、テレンシアが指揮を執ることになった。そこに経験を兼ねて、二人の教え子も同行させている。今回の調査では踏破した10階層からさらに奥深くに進み、モンスターの強さや種類、そして、階層主の討伐、冒険者ギルドの冒険者の安全ルートの確保が目的とされた。当初の予定では、30階層までは安全に踏破できると考えられており、さらにフェレン聖騎士100名の規模での調査は今回が初で、戦力は大幅に強化されている。その結果、29階層までは順調に誰も欠員を出すこともなく、到達することができた。


そして、悲劇が起きた。


30階層に到達した瞬間、巨大な空間に出たと思うと、壁全体に水晶が張り巡らせており、その中央には紫色の光を放つ巨大なクリスタルが浮かんでいた。その大きさはおおよそ10メートルほど。怪しい光を放ちながらゆっくりと回転していた。その先には31階層へ続く入り口があり、レンシアが何かあると思い、近づこうとした時だった。突如、紫色のクリスタルに亀裂が入り、そこから新モンスターが現れたである。10メートルほどの巨大な二足歩行のモンスターはテレンシアが率いるフェレン聖騎士団に向かって襲いかかってきた。フェレン聖騎士団の中でもSランク上級者でさえ、一瞬で、命を落としてしまうほどの強敵だった。そして、100人いたフェレン聖騎士はすべて殺され、2人の教え子もそこで命を落とした。


唯一生き残ったのはテレンシアのみ。彼女は傷を負いながらも地上へと逃げ延びたのだ。


「30階層で、何が起きたのか、詳細までは我にはわからないが、その日を境目にテレンシア様は変わってしまった」

「変わった?」

「あぁ。それまでは、まるで聖母のような温かくて、優しさを持っていたのだが、今ではまるで人が違ったかのように冷徹な方になってしまった。それからというもの、テレンシア様は、自分のことを師匠と呼ばず、『テレンシアさん』と呼ぶようにと。そして、教えることをやめた。それどころか、剣を置き、今では冒険者ギルドの受付嬢になってしまったのだ。あぁなんと嘆かわしいことか」

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