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第7話 ラディアとの再会

♦♦♦♦♦



「くそっ!!」


 ローランは道端にあった石ころを思いっきり蹴り飛ばした。心を躍らせ、憧れる伝説の英雄。第32回フェレン聖騎士団遠征部隊騎士長。ダンジョン「メンディア」を30階層まで踏破したSランク冒険者テレンシア・フォードをようやく見つけた。


 しかし、自分が予測していた方向には進まず、話もまともに出来ずに追い返されてしまう。


 しかも二回もだ。それが悔しくて仕方がなかった。


 自分には実力もユニークスキルも持っていないことはわかっている。でも、諦めきれなかった。


 数年前のことを思い出す。


 ローランは小さな村の生まれだ。名前すらない辺鄙な村で、毎日畑仕事をして暮らしていた。そんな暮らしが嫌だったわけではない。でも、ある日、フェレン聖騎士団に所属する女騎士が訪れた。純白の鎧に身を包み、太陽のような輝きを放つその純潔な眼。そして、光沢をおびる長髪。華麗な女性ではなく、戦うために鍛え上げられた騎士といったような風貌だった。


「我が名はラディア! ここに腕の良い鍛冶屋がいると聞いてきたのだが?」


 ローランはその凛々しい声に心を奪われた。そして、彼女の後ろには総勢100人以上はいるだろうフェレン聖騎士が馬上にて待機していた。それだけで、彼女の凄さがわかる。


 どうやら、村にある鍛冶屋のロンドという男を探しに来たようだ。ローランは生まれて初めて、フェレン聖騎士を見た。羊に盾と剣、そのまわりにリーフを模した軍旗が風になびく。整然と待機する彼らの異様さには目を見張るものがあった。



(――――かっこいい……)


 ただただ、かっこいい、そう思った。


 ラディアは目を輝かして自分を見てくるローランに気が付き、馬から颯爽と降りると歩み寄ってきた。


 何をするのかと思いきや、いきなり頭を撫でて、笑顔を向ける。


「いい面構えだ。少年よ」


 優しく微笑む彼女はまるで太陽のように眩しかった。


「名は何という少年よ?」

「ローラン。俺はローランだ」

「ローランか。良い名だ」


 そういうとラディアは膝を折り、ローランの目線に合わせる。何かを見抜こうと目を細め、頷くと、おもむろに、自分の腰に差していた短剣を抜き取り、それをローランへと差し出した。戸惑いながらも短剣を受け取る。20センチほどの長さなのに、どっしりとして重たい。ローランは落とさないように短剣を握りしめ、ラディアに尋ねる。


「これは?」

「君にこの短剣を授けよう」

「どうして?」

「君には才能があるからだ」


 受け取ったローランは目を輝かせた。


「ほんと??」

「あぁ、我はそんな気がする。確固たるものはないが、君は英雄になるだろう」


 それに後方で待機していたフェレン聖騎士らがざわついた。


 それはそうだ。なんせ、ラディアの目の前にいるのはどこにでもいる村の少年。どう見ても強そうには見えなかった。


 しかし、ラディアの言葉を否定する者は誰一人いなかった。それほどまでに、彼女にはカリスマ性があったのだ。


「だが、今はその時ではないな」

「え?」


 ラディアは立ち上がり、再び馬にまたがるとローランを見下ろす。


「16歳になったとき、エスドラドに行くがいい。そこにおられる我が尊いお方、テレンシア・フォード様の元を訪ねるのだ。そこで、君の力を試しなさい。きっとお力を貸してくれるはずだ」


 そう言い残し、彼女は鍛冶屋へと向かうのであった。


 それから数年が経ち、ローランは16歳になった。あの時の言葉を信じて、彼はエスドラドを目指したどり着く。テレンシアを探し続けた。そしてようやく出会えたと思ったのにた門前払いを食らう羽目になったのだ。


「ちくしょう……」


 拳を強く握り締め、悔しさを噛み殺すように歯を食い縛った。あてもなく、街の大通りを歩くローランだったが、視線先に見覚えのある人が映り込んだ。


 純白の鎧に身を包んだ女性がそこにはいた。腰まで伸びた美しい髪が風によって靡いている。


 間違いない、彼女こそラディアである。


 ローランはいても立っても居られず、彼女の元へと向かった。


「ラディア!!」

「ん? 君は……」


 ラディアは振り返り、ローランの顔を見て、すぐに思い出したかのように声を上げた。


「あぁ……確か、ローランと言ったかな。 あの辺鄙な村の子か。大きくなったものだ」


 ラディアは懐かしそうな表情を浮かべながらローランに近づく。


「おう!  大きくなっただろ!」


 近くで控えていた茶色短髪のフェレン騎士が、ラディアに声をかける。


「団長、そいつは?」

「この子はローラン。我が昔会った少年だ」

「へぇ~」


 興味深そうにローランを見る。


「な、なんだよ」

「なにこの妙なスキル」

「え?」

「おい、やめないか」


 ラディアが止めようとするが遅かった。ダリアナはまじまじと見つめる。


「ふーん、これはまた珍しいユニークスキルだな……」

「な、何言ってるかわかんねぇよ!!」


 ローランは困惑した様子でラディアの方を見ると彼女は苦笑いをしながら説明を始めた。


「こいつは我が部下、副騎士長をしているダリアナという者だ。こいつも我と同じSランク冒険者でね。少し変わったスキルを持っているんだ」

「変わったスキル?」

「まぁ、簡単に言えば他人の能力値を鑑定できる、といったところか」

「そんなこと出来るのか!?」

「あぁ、それでお前のステータスを覗いてみたのさ」


 そう言うと、ダリアナはローランの肩に手を置いた。


「ほれ、見てみ?」


 言われるがままにローランはダリアナの手を見つめる。すると、手のひらから不思議なことに数字が浮かび上がってきた。


「な、なんだこれ! 気持ち悪ぃ!!」

「まぁ、慣れれば便利だ。それにしてもこの、ユニークスキル『神速の学び手』はすごいな。こんなレアなスキル俺は初めて見たぞ」

「レア……?」

「あぁ、レア中のレアだ。それにもう一つ空白がある」

「空白?」

「お前が成長する過程において、新しくスキルを習得する可能性があるってことだ。こいつはかなり珍しい」


 驚いたようなダリアナにラディアは頷く。


「やはり、我が見込んだことはある、ということか」

「さすがは団長、お目が高い~」


 二人の会話についていけないローランだったが、自分が褒められているらしいことを察して照れたように頬を掻く。


 ラディアがふと思い出したかのように言った。


「そういえばなぜ君はここにいるのだ?」

「あぁ、実は……」


 ローランはテレンシアに会ったこと、追い返されたこと、などの事情を話した。するとラディアは顎に手を添え、考えた。


「やはり、テレンシア様は変わられたようだ」

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