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第5話 忙しい受付業務

「小童! お前のような小童が冒険者なんて、まだ早いんだよ! もっと大きくなって、出直してこい!!」

「うるせぇばばぁ!!」

「何ぃ!?」


 女店主は怒り、少年の胸倉を掴み片手で持ち上げる。手足をばたつかせて暴れるもそのまま、出入り口の扉から勢いよく放り投げた。


「二度と来るな!」


 地面に叩きつけられ、土ぼこりが舞い上がる。少年は起き上がって、不満げな表情を浮かべていた。


「クソッ……覚えてろよ!」


 捨て台詞を残して、少年は去っていった。その背中を見送った後、酒場から笑い声が上がった。ミラも思わず、吹き出す。


「ぷっ……あー面白かった。あんな奴がいるんだね」

「まったく」


 テレンシアは呆れてしまい、再び食事を再開した。


「ところで、あの子は一体何だったの? なんで、あなたを指名したのかしらね?」

「わたしに聞かれてもしらないわよ」


 すると近くで見ていたエスドラドの街を拠点に置いているフェレン聖騎士団第3騎士団に所属する老年の騎士ディーゼンが口をはさんできた。


「テレンシア、あいつ、なかなか根性があったな」

「いや、あれはただのバカ」


 テレンシアはそう言いながら、ディーゼンに視線を向けた。


「でもよぉ、あんなちいせいのに、まっすぐな目で、Sランクのお前に言うんだ。冒険者になりたいっていうなら、俺は応援してあげたくなるんだけどな」

「ならない。冒険者は常に死と背中合わせ。生半可な覚悟じゃできない仕事。あんなじゃあ、1階層目でお陀仏よ」

「まぁ、確かにそうだよな……」


 ディーゼンは残念そうな声を出した。彼のような年配の騎士は若手の成長を楽しみにしている節がある。ディーゼンはすでに50歳を超えるフェレン聖騎士団の中でもベテランの一人だ。そんな彼だからこそ、若い冒険者のことが気になってしまうのだろう。


「それにしても、サポーターか」


 ディーゼンは腕を組み、呟いた。


「ん?」

「なんで、あいつはお前を指名したんだろうな。あんなちいせいのにまるで、お前のことを知っているような口振りだったぞ」

「だから、わたしは知らないって」

「そうか、まぁ誰かにあんたのことを聞いたのかもな」


 そう言うと、ディーゼンは一笑いしたあと、酒を一飲みする。それから同僚が待つテーブルへと向かっていった。



 ♦♦♦♦♦



 翌日の日。エスドラドの街は眠りから目覚め、冒険者たちは新たな新発見に心を躍らせながら浪漫を追って、今日も街を出立していく。


 多くの冒険者たちが冒険者ギルドへと依頼を求めて、早くから訪れている。そのため、冒険者ギルドの職員はもっと早くから出勤し、職員たちは朝一番で依頼を受ける冒険者の対応に追われていた。



 テレンシアはいつものようにカウンターの中で書類仕事をこなしていく。その隣では、同僚である受付嬢のミラが、昨夜遅くまで飲んでいたせいで、まだ眠そうに大きな欠伸をしていた。


 膨大な書類に目を通していき、不備がないかの確認、それから押印をしていく。不備を見つけるとその部分に赤ペンを入れていき、必要があれば訂正する。そんな作業を延々と繰り返していく。


「あー、もう! 朝からこんなにも!! どうしてこんなに多いよ!」

「そりゃぁ、冒険者がそれだけ多いってことでしょ」

「それは分かっているけど、私たちには休みなんてないの!」

「ない。でも、仕方がない。私たちはこれが仕事なんだから」

「うぅ……分かってるけどさぁ~」


 愚痴を言いながらも、二人は手を休めることなく作業を続けていく。


「はい、次の方どうぞ」


 若い冒険者が受付カウンターへやってきた。早朝からがちがちの装備で訪れた冒険者には疲労の色が見えた。しかし、達成感に満ちた表情を浮かべている。足取りも弾んでいる。


「ようこそ。エスドラド冒険者ギルドへ。本日のご用件は何でしょうか?」


 テレンシアは深々とお辞儀する。


「ゴブリン30体の討伐完了報告をしに来たぞ!」

「はい、かしこまりました。それではこちらの用紙に記入をお願いします」


 そういって、テレンシアは一枚の紙を渡す。それを若い冒険者は乱雑に受け取った。カウンターに置き、羽ペンで走り書きし、すぐに投げ渡してきた。


「これでいいか? 早くしてくれ、俺は疲れてんだ」


 それにテレンシアの眉がピクリと動く。視線を記載された用紙に向けて、名前を確認した後、立ち上がって、背後に置かれている膨大な書類の中から冒険者の名前を探しにいく。たくさんのファイルが隙間なく置かれているが、あいうえお順で登録している冒険者の名前で並んでいるため、探すのに時間はかからない。


 指差しながら確認する。そして、もう一度、書類に視線を向ける。


 書類の名前欄には『レビン・オールハイド・マルセイム・ドレイク・ゴードウィン』と長ったらしい名前がそれも汚い字で、書かれていたため、れ行の登録ファイルを手に取る。受付カウンターへ戻り、椅子に座って、ファイルを開けた。


「ん?」

「おい、まだか?! 早くしてくれ! 俺は忙しいんだ」


 その言葉にイラッとしたテレンシアだったが、なんとか顔に出さないように心がける。


(――――こっちだって忙しいんだッ!!)と心の中で暴言を吐く。だが、もちろん口にはしない。


「申し訳ありません。少しだけ待っていてください」


作り笑みを浮かべながら、丁寧に答える。


「たくっ。ここのサービスは悪いぞ」


 貧乏ゆすりしながら文句を垂れた。それにまた、イラっとしたが、やはり我慢した。名前を探していくが、あることに気が付く。


 テレンシアはニヤリと笑みを浮かべた。それを横目で見ていたミラはまた悪いことを考えている、と察した。


「あの、あなたはレビン・オールハイド・マルセイム・ドレイク・ゴードウィン様でよろしかったですよね?」

「ああ、そうだ、それがどうしたっていうんだ??」

「えーと……エスドラド冒険者ギルドへの登録は済まされていますか?」

「はぁ? てめぇふざけてんのか?? 俺はもう済んでる!」

「登録証はありますか?」

「だから、あるって言ってるだろ!!」

「では、セオリー通り、確認のため、お見せいただいてもよろしいですか?」

「なんでみせねぇーといけねんだよ!!」

「お見せいただいてもよろしいですか?」


 同じことを二度も言った。それに冒険者は悪態をつく。


「ちッ! ほらよ!」


 舌打ちして乱暴にエスドラド冒険者ギルドが発行している銅製のプレートを投げ渡された。そこには確かに彼の名が書かれていて、ランクもCと記載されている。間違いなく本物だった。しかし、テレンシアはわざとらしく言う。


「おやおや、おかしいですね。あなたの名前はどこにもありませんが?」

「はぁ!? ちゃんとあるだろうが! てめぇ、ふざけるんじゃねぇぞ!」

「いえ。そう言われましても……」

「俺が嘘ついてるとでもいうつもりかよ!」

「そんなめっそうもない……」

「じゃあ、どういうことだよ!」


 受付カウンターを叩き、怒鳴り散らす冒険者に周りが一体何事だという目で注目し始めた。近くにいた職員が駆け寄る。


「お、お客様、どうかされましたか?」

「あぁ、こいつが俺のことを馬鹿にするんだよ!」

「そんなことはございません」


 キリッとした顔で言う。それにさらに腹を立てた冒険者は口を荒げる。


「こいつ、今すぐクビにしろ! こんなくそ生意気な女が受付とか、どうなってるんだ????!」


 それに自分は全く悪くありませんが、というように小首を傾げて見せた。


「お、お客様、どうか落ち着いてください」


 剣幕に圧された職員が慌てて、テレンシアに手で壁を作り、小声で話しかける。


「お、おい、どうなってるんだよ?  ちゃんと説明してくれ」

「わたしは間違っていません。この方が間違っているんです」

「どうして?」

「それは―――」

「おい、さっきから何を話してんだ!!!聞こえてるぞ!! 俺のどこが間違っているんだ??!!」


 そう言って、職員を押しのけて、テレンシアに顔を近づける。しかし、テレンシアは臆することなく、手に持っているファイルを冒険者へと突きつけた。


「そこまで言うのであれば、ご自分でご確認ください」

「はぁ~~~~~~??????」


 冒険者は目の前に出されたファイルを見て、男は目を丸くした。

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