すずねの姿を見たガルは目を細め、誰にも聞こえない声で呟く。
「あの店にいた魔物の……小娘か……」
ガルが返事を返さないと感じたのか、すずねはさらに一歩前に出る。
「どうしてふたりをおそったの?」
「……」
それを聞いたガルの右手は自然と握りこぶしを作っていた。
だが、口を開かずに何も話さない。
すずねはさらに一歩前に出る。
「わたしたちをおそったことを、おこったわけじゃないでしょ??」
「……」
ガルの顔は何も変わらなかった。
だが、明らかにこぶしを作っている手は血管が浮くほど力が入っている。
すずねはさらに近づく。
ちょうどガルとアクアの間まで歩く。
「もしかして……」
すずねが話そうとした瞬間、ガルは目の前に突き刺していた剣を手に取り、
すずねの首元近くで、すっととめる。
ガルの行動のあまりの速さにすずね以外、誰もが指一本動くことができず、表情も凍り付く。
ガルはこれまで聞いたことが無いような低い声ですずねしか聞こえないような小さく呟いた。
「それ以上は口を開くな」
ガルの行動に対してすずねだけが全く表情変えずにそのままの口調で話す。
「わたしたちやよるとかのたたかいに、おこってるんじゃなくて……」
「だまれ……」
ガルが奥歯を噛みしめているのか、表情まで歪み始める。
手に持っていた剣も変な力が入っているためか、カタカタと揺れはじめた。
そんなガルの様子を無視してすずねはまっすぐガルの方を見ながら話しをつづけた。
「わたしたちがあらそった……あのばしょがたいせつだったんじゃないの?」
「黙れ!!!!!」
ガルがすずねの首元でぴたりと止めていた剣の炎が感情に呼応しているかの如く一気に燃え上がる。
その熱波が理由なのか、アクア側の氷も少しずつ溶けていく。
そんな状況でも、すずねは顔色一つ変えずにガルの目をじっと見ていた。
「ねぇ、ちゃんとおしえて……とってもたいせつなことなの」
「……」
ガルはにらめつけるような目ですずねを見る。
すずねはその目に対しても怖気づかずにガルの目を見た。
全員が呼吸すら忘れてしまったかのように一瞬、動かなかった。
ガルの剣や周りの炎だけが揺らめいていた
ガルはすずねの首元でとめていた剣をスッと降ろした。
そして少し目をつむったのち、深呼吸をする。
目をゆっくりと開いてから口を開いた。
「……あぁ、お前の言う通りだ。だから俺はその二人を許すことはできない」
「……やっぱり」
ガルの言葉を聞いたすずねはさらに一歩、ガルに近づいた。
それを後ろで見ていた大将は限界だったのか、すずねの方に近づこうとする。
だが、それをアクアが手を横にして止める。
ガルの目の前にまできたすずねは、急に頭を下げた。
「おじちゃん……ごめんなさい」
「……なぜ、お前が謝る?」
「あなたのたいせつなあのばしょをきずつけたのは……」
すずねは頭を上げる。
目には涙をためていたが、泣いてはいなかった。
「わたしだと……おもうから」
「……」
すずねの言葉の意味が一瞬理解できなかったのか、ガルは固まる。
そしてすずねの話している意味が頭で理解ができたのか、ガルは目をカッと見開いた。