すずねの言葉にアクアが話しかける。
「すずねちゃん、それはどういうこと?」
「だって、らどをたすけるだけでしょ?あわないようにまわりみちをしていけば……」
「いや、それは少し難しいかもしれない」
すずねの質問にヨルが少し焦っている顔をしつつも、冷静な口調で答える。
「昨日まで聞こえていた音から分かるだいたいの距離と隠れ家の距離がかなり近かった。つまり、刻一刻とラドは追い詰められていることになる。たぶん......回り道をしている時間はないと思う」
「隠れ家から逃げる可能性はあるんじゃないか?」
大将が横からヨルに質問をする。
ヨルはその質問に首を横に振って回答する。
「それもないと思う。2週間分の食料や水、自分が仕掛けた罠などを考えると、隠れ家から逃げるという判断をラドがする可能性はかなり低い。何より……ラドは私を信用して待っているハズ」
「なるほど……であれば、俺たちができることは最短で隠れ家まで行き、戦士と会って……どうにかしないといけないってことか」
「そういうことになりますね」
ヨルと大将の会話を聞いていたアクアが悩ましい顔をしながらも首を縦にして頷いて答えた。
そんな三人の話を横で聞いていたすずねが誰に言うわけでもなく、質問をした。
「ねぇ……そもそも、どうしてせんしのおじちゃんはふたりをおそったの?」
「そりゃ、嬢ちゃん。指名手配されているから悪いやつだと思ったからじゃねぇのか?」
「でも、ふたりはせんしのおじちゃんになにもしてないよ?」
「戦士ガルって言えば、魔族嫌いで有名だからな。理由なんていくらでもあるだろうさ」
「でも、まえはわたしをたすけてくれたよ?」
「……」
すずねの質問攻めにルトの回答がとまる。
横で聞いていたアクアも少し納得がいかないのか首を少し傾けながら話す。
「確かに……私の知っている戦士ガルという男は、自分の信念を最も大切にしていた人でした。確かに魔族を嫌ってはいましたが、指名手配されているから殺しに来る、というような野蛮な男ではなかったはず……」
「そうだった……」
アクアの言葉に大将が何かを思い出したのか、呟く。
「俺の店でその話になった時、アイルも同じようなことを言っていた。『戦士は自分に関係しないことのために動く奴じゃない』って。あと、なんか知っていそうだったんだけど、誤魔化されたんだった……ちゃんと聞いていればよかった」
「勇者様が……あの方、いつも重要なことを隠しますから」
「そうだよね。アイル自身は全部オープンなんだけど」
アクアと大将はアイルについての意見が一致したのが面白かったのか、見合わせて声を上げて笑った。
その様子を少し冷たい目で見ていたヨルが愚痴っぽく呟く。
「私としては、ラドが助かるならどういうやつでもいいんだけどな」
「まぁそういうなって。ほんの小さな情報でも集めておけば助けられる確率が上がると思うがな、ガハハ!!」
「はぁ、まぁそういうことにしておこう」
ルトの言葉にヨルはため息をつきつつも納得したようだ。
笑っていたアクアは、大将と自分自身しか笑っていない状況にむず痒さを感じたのか、コホンと咳ばらいをしてから話を続ける。
「とりあえず、我々は明日の早朝から直線でラドの救出に向かうとする。戦士については、基本的に私が相手をしようと思います」
「お前一人で戦えるのか?」
アクアの言葉にヨルが少し不安そうに尋ねる。
アクアは自信たっぷりな顔で答える。
「もちろん、これでも魔王様の側近ですからね。あと、あなた達がいても戦力にはならないです。むしろ危険が及ぶかも」
「……わかった。なら残りの4人でラドを救出するとしよう」
「それでお願いします。あの戦士と戦うのはとっても疲れるので、早めに対応してくださいね……それでいいですか?」
アクアの言葉に大将、ヨル、ルトは何も言わずに首を縦に振った。
ただ、すずねだけが悩んでいた。
「すずねちゃん、何かあるの?」
「ねぇ、あくあ。ひとつだけおねがいがあるんだけど……」
5人がいる宿は明るいまま夜が更けていった。
そして次の日の朝、5人は町の中心にある噴水に集まった。