アクアの言葉に場の空気が一気に引き締まる。
アクアはそのまま話をつづけた。
「私が魔王様から連絡があって先にこっちに来てから住民の人たちに話を聞いておきましたので、まずその話から共有しましょう」
「お願いします」
大将は円形の机の上で両手を組んだ。
ルト、ヨル、すずねも異論はないのか大将の言葉に何も言わず、各々の聞きやすい体制でアクアの方を見る。
「まず、ヨルさんがラドさんと別れてからの話ですが、町でもかなり問題になったようです」
「問題?どういうことだ??」
ヨルは眉をしかめながら尋ねる。
アクアは淡々とした口調で答える。
「この町では『人間』と『魔族』の派手な喧嘩はご法度なので」
「……なるほどな。ラドのやつ、そこまで考えてたのか」
「ちょっと待ってくれ、さっそくついていけないんだが」
アクアの話に納得しているヨルに対して、大将が話を止めた。
「どうしてこの町ではご法度なんだ?喧嘩なんてどこの世界でもあるだろう」
「それはこの町が人間界と魔界の間の町、というのが理由ですね」
「……やっぱり少し特殊なのか?」
「少しどころかかなり特殊です。この町は人間と魔族が戦争していた時から人間と魔族の仲が良く、戦争の時は唯一の中立地帯でした」
アクアはそう言うと、机の上に合ったお茶を一口飲んだ。
それを聞いたすずねが不思議そうな顔で尋ねる。
「ねぇ、どうしてこのまちだけなかがよかったの?」
「それはですね、この町には戦争をするよりもはるか昔から一つだけ約束事があるんですよ」
「どんな?」
すずねは目を輝かせながら聞く。
アクアはニコリとして答えた。
「『人間と魔族は仲間であり、何があっても争うべからず』っていう約束がね」
「いいやくそくだね!」
「そうですね。わたしも最近になって良い約束だと思うようになりました」
「その約束があるから、戦士とラドの争いはどうなったんだ?」
大将はアクアに急かすように尋ねる。
アクアはコホンと咳払いをしてから話を続ける。
「この町の住人に止められたようです。たとえ怒り狂っている戦士であっても、この町の無関係な人間や魔族をばっさばっさと切ることはできなかったらしく」
「で、その間にラドは逃げたと」
「その通りです。住人曰く『何もしてないのに、急に襲い掛かって来た!助けてくれ!!』と叫びながら森の中に逃げて行ったと」
「……あいつ自身が作った隠れ家に逃げたんだ」
アクアと大将の話にヨルが口を挟む。
その言葉にアクアが眉をひそめる。
「隠れ家……なんて作っていたのですか?」
「あぁ。あいつから地図も渡されている」
ヨルはアクアに地図を手渡した。
アクアは受け取ると、じっと地図を眺め呟く。
「ここがここで……ここだから……。本物っぽいですね。
私が住民から聞いた、逃げた方向と一致しています」
「なら、すぐに追いかけた方が!!」
「いえ、それが簡単じゃなさそうなのです」
アクアはヨルに地図を返しながらも話しかける。
「この町の住人に説得された戦士は、自身の宿に戻って荷物を取りに帰った後、ここの住人達に『オークの言った森の方向には絶対に近寄るな』と言って森の中に入って行ったそうです」
「追いかけただけじゃ?」
「住人曰く、戦士がいなくなって数日間は毎日森の中から木が倒れる音や爆発音などが鳴り響いていたようで」
「なるほど、この町に着いてからかすかに聞こえていた変な音はこの音だったのか」
「「「「???」」」」
ヨルの言葉に他の4人は首をかしげ、ヨルを見た。
少し驚きつつも大将が尋ねる。
「ヨル、本当にそんな音が聞こえていたか?俺は全く聞こえなかったぞ」
「あぁ。あまりに遠くて小さい音だったから、気にはしてなかったが」
「……ほかに聞こえていた人はいるか?」
誰も手を上げない。
それを見たヨルは大将に声をかける。
「猫又族は耳が良いんだ。だから聞こえたんだろう」
「ヨルがその音が今でも聞こえたということは……まだ戦士はラドを探しているってことか」
「そういうことになるな……よかった」
ヨルはほっとする。
だが、アクアは顔を少ししかめて話す。
「ラドさんが生きていることを知れたのはとっても良いんですが……
我々はラドさんを助けるためにどうやって戦士と戦うか考えないといけないですね」
その言葉に場が静まり返った。
すると、すずねが不思議そうに話す。
「たたかわなくていいとおもうけど」
その言葉に他の四人の目線が集まった。