大将の店『ゆうなぎ』にみんなが集まって3日後の早朝。
天気は良く気温も程よいものの、まだ朝日が昇っていないような時間帯。
大将は自身の店の扉に『諸事情により、2週間ほど休みます』の紙を貼った。
そしてそのまま横の祠まで歩いて、跪いていつも通り目を閉じて祈る。
「いつもありがとうございます。今日も良い一日でありますように」
そしていつもとは異なり、言葉を付け足して呟く。
「そして今回の旅が安全な旅となりますように……」
朝が早いためか、少し冷たい風が大将の頬をなでる。
少し時間が経ったのち、目を開き立ち上がった。
すると、大将の後ろから声が聞こえた。
「ほっほっほ。いい心がけじゃ」
「お爺さん……か」
祠の傍にひげが長く、白い服を来たお爺さんが立っていた。
「どこに行くんじゃ?」
「サンドラの町に」
「そんなところへ……何故じゃ?」
大将はお爺さんにこれまでにあった話を色々話す。
その話をお爺さんはにこやかに、うんうんと頷きながら聞いていた。
「ってわけで、ヨルってやつを助けるためと祠の台座になる石を取りに行こうと思う」
「そうか、そやつのため、祠のために頑張って行ってきておくれ」
「なぁ、お爺さん」
大将は真剣さと不安が入り混じったような口調で話しかける。
「前に合った時、世界で問題が広がっているって言ってなかったか?」
「言ったかのぉ……覚えておらんわい」
「今も問題は広がっているのか?」
「あぁ、そうじゃ」
「……」
お爺さんは隠すことなく答える。
大将はさらに質問した。
「それって天候に関係があるのか? 前に北の方向を向いて問題があるって言ってたけど、
その後にアイルが北の方で雨が降り続いて困っているって言ってたから」
「その質問については回答しづらいのぉ。関係が無いとは言えない……が正しいか」
「どういう意味なんだ?」
「ほっほっほ。もう少し自分で調べたらどうじゃ?」
お爺さんは笑顔で笑ってごまかす。
大将は少し首を振って、はぁとため息を漏らした。
それを見たお爺さんは自身の白いひげを触りながら、口を開く。
「一つおまけをしてやろう。一時的じゃが天候はましになるじゃろうて」
「それはお爺さんが頑張ってくれるからか?」
大将の質問にお爺さんは首を横に振る。
「いや、儂は関係ないかのぉ……
イメージ的には膨らんでいた風船が少ししぼんだ、というのが正しいかのぉ」
「……つまり、風船が膨らむまでの間、祠を直すために時間ができたってことか?」
「まぁ……そうじゃな」
その回答と同時に朝日が顔を出し、光がさす。
お爺さんは少しまぶしそうにしつつも、朝日の方向を向いた。
大将もお爺さんと同じく朝日の方向を向いて口を開く。
「再びしぼむことはあるのか?」
「それは儂にはわからんのぉ。じゃが……」
お爺さんは朝日を眺めながら呟くように話す。
「祠を直さんことには、すべての問題は解決されん。
儂もいつまで手伝えるかもわからぬ。だからこそ、ほんの少しでも……
それこそ一歩ずつでもよいから祠を直してほしいんじゃ」
「それはすずねちゃんのためになるのか?」
大将はお爺さんの方を見る。
お爺さんはにこりとしつつも口を開かなかった。
回答が返ってこないことを理解したのか、大将は再び朝日を眺めた。
心地の良い風が二人の間に流れる。
お爺さんも大将も目を閉じて心地の良い風を楽しむ。
風がやみ、大将は目をゆっくりと開く。
そしてお爺さんの方を向いて声をかける。
「色々話してくれてありがとうな……ってまた居ないし。
ほんといつもあのお爺さんはすぐに居なくなるよなぁ」
大将はキョロキョロするものの、横にいたはずのお爺さんはすでにどこにもいなかった。
大将は両手を上にあげてのびをしてから店に戻った。