ヨルは大将、すずね、ルト、アイル、ルヴィアの5人を目の前にして深呼吸をして口を開く。
「あれは、お前たちを襲ってしまった日の後、私の意識が戻った時からの話になる」
そう言うと、ヨルは淡々と話し始めた。
◆◆◆
「いてて……ここは?」
ヨルは気が付き、周りを見渡す。
自身がベットに寝ており、それ以外は木の椅子と机しかないような質素な部屋のようだ。
部屋自体の大きさもそこまで大きくはない。
すると部屋の扉が開いた。
「ようやくお目覚めか」
「ラド。ここは一体……私はどうなったんだ?なぜ生きている??」
「ちょっと待て。一つずつ答えるから」
ラドは椅子を自分の場所まで引き寄せて座る。
「まずここはサンドラの町の宿屋で、お前が気絶してからちょうど1、2日ぐらいか」
「魔族の住む世界と人間の住む世界のおおよそ間にある、あのサンドラか?」
「そうだ……と言っても、単純に巨大都市「リアナ」からの飛行魔法の直行便で最も魔族側に近い町ってだけで選んだ。リアナに比べれば田舎みたいなものだが、俺らのアジトも一応近いからな」
「なるほど」
そっけない返事にラドは少し怒った。
「おい、大変だったんだぞ!気絶しているお前を背負いながら色々なところで『寝てるからそっとしておいてくれ』って言いながらここまで来るのは」
「……すまなかった」
ヨルは頭を下げ謝りつつ、ベッドから立ち上がろうとした。
が、立ち上がる前にヨルは叫び声をあげた。
「イテテテテ!!」
「おい!完全に治ってないんだから、まだあまり動くんじゃないって」
「あぁ、すまないが言葉に甘えさせてもらおう」
ヨルは立ち上がるのをやめる。
それを見たラドは頷きながら話しを戻す。
「お前が気絶した後の話だったな……あの後、あの妖狐の周りに雷が一斉に落ちた。
明らかにあの妖狐の感情に呼応していた」
「やっぱり……あの落雷は気のせいじゃなかったのか」
「あぁ、そうだ」
ヨルの全身は少しガタガタと震える。
ラドは椅子から立ち上がり、コップに温かいお茶と薬のようなものを入れる。
そしてそれをヨルに渡した。
「まぁ落ち着け、痛み止め入りだ。俺たちは生きている……それだけで儲けものだ」
「あぁ……ありがとう」
ヨルはコップを受け取り、中身を一口飲む。
ラドはその様子を見ながら話を続ける。
「雷が落ちた後だが、たまたま雷が落ちなかった俺以外は全員気絶していた。
とはいえ、お前も気絶している上にわけのわからない奴をどうかする前にお前を担いでそのまま逃げたさ」
「それが最善だな。私でも逃げていたと思う」
「……であの妖狐をどう思った?」
「間違いなく関わってはいけないタイプだと思う。今、生きているだけで儲けものかもしれない」
「なら、仕事は?」
「キャンセルだ、とんずらさせてもらう。全く......反吐が出る仕事なうえに割に合わない仕事だった」
そう答えると、ヨルは頭に手をあててベッドに横になった。
そしてラドに話しかける。
「すまない……頭がくらくらする。少し寝ていいか?」
「あぁ。とりあえず、2週間程度はこの街で休憩するつもりだ。その間に体を治してくれたらいい。俺はその間に準備をしておく」
「準備?何の準備だ?」
ヨルはラドに尋ねる。
ラドは笑いながら答えた。
「まぁ、気にするな。俺が気にしすぎかもしれないが、念のためってやつさ」
そう言うとラドはニコリとして部屋から出て行った。
ヨルは薬も聞いていたのか、まどろみの中に沈んでいった。
・・・・・・
そして二週間、ヨルの体調もかなり良くなった昼下がり。
ヨルとラドは宿屋から出て行く準備をしていた時。
コンコン
部屋にノックの音が響く。
ヨルは、はーいと言って部屋の扉を開けた。
そこには自身の体より大きい剣を背負い、顔の鼻には口と並行方向に火傷の跡がついている男が目の前に立っていた。
◆◆◆