アイルとルヴィアは息が上がった状態で店の中に入って来た。
「大将~、緊急の要件があるからって来てやったぞ……ったく、昼も来たってのに。
俺も暇じゃないんだぞ!」
「あんたはいつも暇でしょ……大将、私も無理して来たけど。緊急の案件ってなに?」
アイルとルヴィアは詳しい話を知らないのか、大将以外が座っているテーブル席に近づく。
そして二人とも人数が一人多いことに気づく。
「あれ、そこの白いタオルで頭が隠れている子が緊急の理由かな?」
「そうかもってあれ、まさか……」
ルヴィアは白いタオルで隠れ切れていない耳を見て何かに気づいた。
「そのまさかです」
温かいお茶を入れた湯呑を2つもって大将が現れる。
そしてその湯呑を空いている席に置いた。
「アイルとルヴィアさんはこちらにどうぞ。さて、話してもらおうか」
猫又は白いタオルを外す。
凄く申し訳なさそうな顔でアイルとルヴィアを見た。
その瞬間、アイルの顔は一気に真っ赤になり飛びかかろうとするが、
それを予期していたのか、すぐにルヴィアが抱きかかえて止める。
ただ、それでもアイルの罵声は止まらない。
「おい、てめぇ。何しにこの店に来てんだ!お前のせいで……お前のせいで大将もすずねちゃんも!!!」
「ちょっと、やめなさいよ!!!」
怒りのまま暴れているアイルをルヴィアが必死に止める。
すると、アイルの目の前にすずねが両手を大の字にして話しかける。
「あいる。おねがい、きいて!!」
「それはできない!みんなを傷つけた奴を俺は絶対に許さない!」
「ここにいる3人が、はなしをきくってきめたの!」
「……!?」
暴れていたアイルがピタっと動きを止める。
そして大将とルトに尋ねた。
「大将、ルトさん……それは本当なのか?」
「あぁ。本当だ」
「嬢ちゃんの意思だがな」
大将とルトはアイルの質問に答えた。
それを聞いたアイルはすずねに尋ねる。
「すずねちゃんは......本当にそれでいいんだな?」
「うん」
すずねは小さく頷いた。
アイルはハァとため息をついて、大将が淹れたお茶の席にドスンと座った。
すずねとルヴィアは少しほっとした様子で同じく座った。
全員が座ったのを確認した大将が猫又に話しかけた。
「話し合う前に一つだけ言っておこうと思う」
「……」
猫又は何も言わずに大将の目をじっと見る。
にらみつけるような目でその目を見つつ、大将は口を開く。
「嘘や偽りがあった時点で、たとえすずねちゃんが何を言おうと叩きだす。いいな?」
「……もちろん」
「なら、まず名前を教えてもらおう」
「……ヨル」
大将の言葉に消えるような小さな言葉で名前を言った。
そのまま大将の質問は続く。
「ヨル、どうして敵であったこの店に助けを求めたんだ?」
「時間的にも、強さ的にもお前たち以外には頼れない状況なんだ……」
「そもそも、お前たちは二人組だったと思うが?あのオークに頼ればいいじゃないか」
猫又のヨルは首を横に振った。
「あのオーク……ラドは今も戦っている」
「誰と?」
「……自身の背の高さを超えた剣を持つ、化け物と」
「おい、それって……」
大将はアイルの方を見た。
アイルはヨルに尋ねる。
「おい、そいつの鼻には傷はなかったか?」
「あった。口と並行に大きな傷が」
「……戦士の野郎に間違いないな。あのバカ野郎、何やってやがる」
アイルはため息をつきつつ答える。大将はヨルへの質問を続ける。
「そもそも、俺たちを襲ってから今まで何をしていたんだ?」
「ラドが戦っている理由も含めて話をさせてほしい」
ヨルは大将の目をじっと見ながら答えた。