左頬が手の形に真っ赤になっているアイルが頬を気にしながら大将に話す。
「大将……俺、なんか不味いことした?」
「あぁ。反省しろ」
「シクシクシクシク……」
アイルは下を向いて泣くような仕草をする。
それを見たすずねが可哀想になったのか近づいて話しかけようとする。
だが、それをルヴィアが止めた。
「絶対ダメ。調子に乗るから」
「でもちょっとかわいそう」
「良いのそれで。すずねちゃんは恥ずかしい目に合ったんだから」
すずねの心配そうな顔に対してルヴィアは鬼の形相でアイルをにらめつけている。
それを見ていた大将がアイルとルヴィアに話しかける。
「アイルとルヴィアさん。今日は単にご飯を食べに来た……ってわけじゃないでしょ?」
「そうよ、こんなことに時間をかけてる場合じゃなかった。
勇者、いつまでしょうもない泣きマネしてるの!」
「はいはい。わかりましたよ」
泣きマネをしていたアイルはスッと顔を戻して真面目な顔になった後、チラッとすずねの方を見た。
それを察した大将がすずねに話しかける。
「すずねちゃん、お客さんも少なくなってきたからテーブル席の拭き掃除をしてくれないかな」
「わかった!」
すずねは元気に返事をした後、布巾を持ってテーブル席をまわり始めた。
その様子をアイル、ルヴィア、大将は確認した後にアイルが話し始める。
「まず、すずねちゃん誘拐の続報だが……似顔絵がつい先日に上がってきた。
まだ表には出ていないけど大将に見てもらいたくてこっそりパチって持って来た」
アイルは懐からスッと2枚の似顔絵の紙が出し、それを大将に渡した。
受け取った大将もその紙をじっと見つめ、呟く。
「これは……」
紙には鉛筆のようなもので細かな絵が描かれいた。
一枚には少し優しそうな顔つきのオークが。
もう一枚には顔の下半分がお面で隠れている猫又の顔が描かれていた。
それを見た大将が、紙をアイルに返しながら話す。
「正直、あんまり覚えていないけど……確かにこんな顔だった気がする」
「なら良かったわ。ドワーフのルトはもちろん、オークと猫又の長にも手伝ってもらって魔族側で書いたから」
横からルヴィアが大将に声をかける。
紙を受け取ったアイルは黙って縦に頷き、大将に話しかけた。
「嫌なこと思い出してすまなかったな」
「いや別に気にしなくていいよ」
「大将の確認も取れたから、細かい内容を書いて本格的にこの紙を町中にばら撒く予定にしている」
「あぁ、ありがとう」
大将はアイルにお礼を言った。
アイルは少し恥ずかしいのか、大将から目線をそらして小さな声で返事をする。
「まぁ、いいってことよ」
「そうそう……俺からもアイルに一つ聞きたいことがあったんだ」
「なんだ?」
アイルは再び大将の方を見た。
大将は口を開く。
「俺を助けてくれた僧侶……さんに店に来てくれるように言ってくれないか?
お礼がしたいんだ。まだ会ったことが無いからさ」
「僧侶か?今度会ったら行っておくけど、結構むずかしいかも」
「そうなのか……そりゃ残念だ」
大将は残念な顔をする。
アイルは手をひらひらさせながら話す。
「勇者パーティーはみんな自由奔放でさ、行動を縛るのは結構厳しいんよ。
魔法使いは基本的に図書館にこもりっぱなし。
僧侶はずっと色々な病院をめぐって一人でも多くの人を助けてる。
戦士なんて……最近見なくなったから。何処にいるかも正直わからん」
「そうか……無理言ってすまなかったな」
「まぁ、いつかは会うはずだからその時に話しておくわ」
アイルはニコリとして大将に話しかける。
横でじっと聞いていたルヴィアが両手を合わせてパチンと叩いて話す。
「さっ!話すべきことも終わったしご飯食べましょ!!私、お腹ぺこぺこなのよ」
「俺も!!!大将、今日は何だしてくれるの!?」
「今日は……コロッケでも出そうかな」
「私、コロッケまだ食べたことない!!」
「俺も!!早く作って!!」
「あいよ」
アイルとルヴィアの言葉に大将はニコリとして答えつつ、二人に出す料理を作り始めた。