アクアとすずねは大将が作る料理をニコニコしながら見ている。
ふとアクアは何かを思ったのか、すずねに話しかける。
「すずねちゃん。元気になった?」
「えっ??どうして?」
「いや……いろいろ忙しくて、あまり会えてなかったから……」
アクアは歯切れの悪い言葉で話を続ける。
すずねはそんなアクアに満面の笑顔で答える。
「とってもげんき。やさしいひとにかこまれて……わらっていられるから」
「それなら良かった!少し心配しちゃったじゃない!!」
アクアはすずねの頭に手を置いてゆっくりと撫でる。
すずねはその行為が嬉しいのか、目をつぶって感触を楽しんでいるようだ。
よく見ると三本のもふもふな尻尾も、同じ周期で揺らめいている。
その様子を大将は料理を作りながらも、にこやかに黙って見ていた。
少し時間が経ったのち大将は料理が完成させたのか、
個別のお盆にご飯とお味噌汁と共に料理を乗せてアクアとすずねの前に置いた。
「アクアさん、お魚が好きだったと思ったから……はい、ぶり大根!」
底の深いお皿の中には少し濃い色の汁の中に半円状に切られた大根とぶりの切り身が入っていた。
大根はよく汁がしみているのか元の白の色ではなく、汁の色にかなり近い色になっている。
ぶりの切り身も色がついているのはもちろん、身がほろほろなのか、すでに崩れかけている。
お皿の中を見たアクアとすずねは目を輝かす。
そして共に手を合わせた。
「「いただきます!!!」」
二人ともお箸を持って食べ始めた。
アクアは綺麗な箸さばきで、ぶりの身をほぐして口の中に入れる。
そして一言呟く。
「生きてて……よかった……」
そしてそのままご飯やお味噌汁、ブリなどを交互に食べていく。
食べることに集中しているのか、味を確かめているのかそのあとは一言も話さなかった。
一方、すずねはお世辞にも綺麗とは言えない箸さばきであるものの、器用に大根を切り分けて口に入れる。
「うん!おいしいよ!!」
そう言うと、ぶり大根ばかりむしゃむしゃと食べはじめた。
二人の食べっぷりをニコニコしながら見ていた大将は、適当に開いているカウンター席に置いて小さくいただきます、と言ってから食べ始めた。
少し時間が経つと、みんなお盆の中に置いていたお椀やお皿の中は綺麗に無くなっていた。
そして三人とも手を合わせる。
「「「ごちそうさまでした」」」
その言葉の後は、大将が三人分のお盆を順に片づけ始める。
アクアはナプキンのようなもので口元を拭いた後に席を立って大将に話しかける。
「大将、ごちそうさまでした……今回のは特においしかったです!また食べに来ます!!」
「アクアさんならいつでもどうぞ。おいしい魚料理を研究しておきますね!」
「はい!次も楽しみにしてます。あと……」
アクアは大将だけでなく、カウンターに座って聞いていたすずねに向かって、片手で握りこぶしを作ってガッツポーズをした。
「久々のオープン、頑張ってくださいね!」
「あぁもちろん!!」
「がんばる!!」
大将とすずねも同じくガッツポーズをした。
アクアはそのまま店を出て行く。
出て行ったアクアを見送った大将はすずねに話しかける。
「すずねちゃん、夜の開店に向けてがんばろっか!」
「うん!おみせ、ぴかぴかにする!!」
大将は料理の仕込み、すずねは店のかたずけや掃除を再び始めた。
そして夜になる。
大将は開店時間の数分前になり少しそわそわし始めた。
すずねはそんな大将の様子が珍しいのか、少し尋ねる。
「たいしょう、どうかした?」
「いや……もしお客さんがいなかったって思うと……」
大将の手が少し震えていた。
珍しく弱気の大将を見たすずねは何を思ったのか、震えている大将の手を両手で握った。
「だいじょうぶ!いっしょにがんばろ!!」
「……あぁ、そうだな!頑張るか!!」
震えていた手がおさまった大将は握られた手をギュッとしてから、手を離した。
そして店の前についている『閉店中』の札を変更するためか、引き戸をガラガラと開けた。
店の外の光景を見た大将は目を見開いた。