女性の姿を見たオルクは悪態をつきながら怒鳴る。
「けっ!魔族かよ。さっさとどきやがれ」
「すみません」
そう言うと、女性はオルクが通る場所を確保するために横にさっと移動する。
オルクは顔をしかめながら店から出て行く。
パチン!!!
女性は指パッチンをしつつ、店の中に入り引き戸を締めた。
すると、外から叫び声のような声が聞こえる。
「あっつ!!なんだ!?なんで俺のけつから火が上がってるんだ!!!!」
外の声を無視しつつ、女性はカウンター席に座る。
「大将、また変なやつに絡まれてたんですか?」
「側近のアクアさん、いらっしゃい。まぁね、変な奴もよく来るからさ」
アクアは部屋の端っこで固まっていたアクアにも話しかける。
「すずねちゃんも……こんにちは!」
「あっ……こんにちは!!たすけてくれてありがとう!!」
「助けたのは大将だから。私はおしりを燃やしただけだよ」
「ははは!」
すずねは固さが無くなり、一気に笑顔になる。
アクアの元に駆け寄って、横の席に座った。
大将もすずねが笑顔になって少しほっとしたように見える。
そしてアクアに尋ねる。
「で、アクアさん。今日はどうかした?」
「いえ、今日が開店をお聞きしたので……念のため傷が開いたりしていないか心配で」
「あぁ、それなら大丈夫」
大将は割烹着をさっと脱ぎ、胸をはだけた。
以前アクアに魔法をかけてもらった場所に、刺されたであろう傷は残っているものの完全に塞がっていた。
それを見たアクアは頷いて笑顔になる。
「良かった。無理していないか少し心配していたけど、これなら心配なさそうですね」
大将は服を着なおし、割烹着をつけながら答える。
「今は全く無理してないけど、アクアさんに魔法をかけて貰って病院を抜けたあとが一番きつかったよ。特にあの緑の魔法が切れた後が……」
「それはちゃんと言ったはずですよ。ちゃんと病院に行ってくださいって」
アクアはまっすぐした目で大将の方を見る。
大将は何かを思い出したのか、苦笑いしながら答える。
「痛くなって、病院に行ったんだけどかなり怒られたよ。
『あなたは刺されて死にかけてたんですよ!ちゃんと安静にしないと!!』って」
「それについては私も同罪かもしれませんね。連れ出したのは私なので」
アクアは少ししゅんとする。
その姿を見た大将は少し笑いながら声をかける。
「ううん。連れてってもらう時に俺が無理を言ったからだしね。それに……」
「それに?」
アクアは大将が話を途中でとめてしまったことに少し不安そうな顔をする。
逆に大将は何か大切なことを思い出しているかのようにすずねを見ながらしみじみと話す。
「あの時にアクアさんに病院から連れ出してもらってなかったら......
俺の大切なものが壊れていたかもしれない」
「……少し意味が分からないですけど、とりあえず良かったってことでいいですか?」
「もちろん!めちゃくちゃ感謝しているよ!!」
「なら良かった!!」
少し心配していた顔だったアクアはにこやかな顔に戻る。
大将はそんなアクアに向かって笑顔で尋ねる。
「で、アクアさん。以前話した約束を覚える?」
「以前って、大将が病院を抜けたときですか?」
「そう。あの時の約束したこと」
「うーん……」
アクアは首をひねって悩む。少し時間が経ったものの思い出せないらしく、申し訳なさそうに話しかける。
「大将……ごめんなさい、思い出せないです……」
「はぁ、それは残念だなぁ」
「……」
アクアは申し訳なさそうに下を向く。
大将は笑顔を崩さずに話す。
「次来た時もおごらせてくださいね、って言ったんですよ」
「そうでした!!!」
アクアの顔がパーッと明るくなる。
その顔を見た大将は料理を作る準備を始めながら話す。
「久々の開店前だし、メニューは選べないけど……昼ご飯でいい?すずねちゃんも一緒に食べる?」
「もちろん!!お願いします!!!」
「たべる!!!」
アクアとすずねは同時に元気な返事をした。
それを聞いた大将は腕まくりをしてご飯を作り始めた。