「すぅ……すぅ……」
すずねは自身の部屋で布団の中で寝ている。
それを見た大将がにこりとし、部屋の扉を閉めた。
大将は1階に行く。
また、店はまだ電気がついていた。
「嬢ちゃんは?」
「全く起きなかったよ。ご飯を食べ終わってすぐに机で寝るとは……
たぶん全く寝てなかったんだろう。酷いくまもあったし」
「だろうな」
大将は厨房に行き、とっくりを取り出す。
その中に透明な液体を流し込んで、沸騰したお湯の中にとっくりを浸しつつルトに話す。
「熱燗でいいか?」
「大将が選ぶならなんでもいい」
「はいよ。ちょっと待ってて」
そう言うと、大将は熱湯で温めているとっくりをゆっくりと揺らして中身を温める。
少し時間が経ち、大将は温まったとっくりを取り出して周りをタオルで拭いてからおちょこ二つと共にお盆の上に置いて持っていく。
そしてカウンターに座っているルトの横にお盆ごと置いた。
「お待ち」
「おうよ」
大将はルトの横に座り、お盆の上の物を降ろす。
ルトは無言で中に何も入っていないおちょこを一つ手に取り、大将の方に差し出した。
大将も無言でとっくりを手に取り、中に入っているものをルトのおちょこに注いだ。
とく……とく……とく……
大将は注ぎ終わったとっくりを置き、もう一つの空のおちょこを手に取る。
ルトはさっきの大将と同じ要領でとっくりを手に取り、大将のおちょこに注ぐ。
とく……とく……とく……
そうして注ぎ終わったとっくりを置いたルトは、再び中の入ったおちょこを手に取る。
大将とルトの持っているおちょこの水面がゆらゆらと揺らめいている。
そして呟くように二人は話した。
「お疲れさま」
「おう。大将もな」
チン
二人のおちょこがぶつかる。
そして二人は入っていた日本酒を一気に飲んだ。
「……大変だった後の酒はうまいな」
「ガハハ!そりゃそうだろ」
二人は再びお互いの日本酒を入れあって、少し飲む。
大将は中の入っているおちょこを持ちながらルトに話す。
「本当にありがとうな」
「なにがだ」
「すずねちゃんを……助けることができた」
ルトは大将の方を向かず、おちょこの水面を見つめながら話す。
「俺は……結局何もできなかった」
「なぁ、ルト、あそこで何があったか教えてくれないか?」
大将はルトの方を見て話しかける。
ルトは酒をぐいっと飲んで、おちょこと置いてから口を開く。
「……大将には知る権利があるな」
そう言うと、ルトは大将の方に体を向けて話し始める。
「大将が倒れて……あの周りに雷が落ちたのは知っているか?」
「あぁ、西地区に行ったからな。ただ、あの雷の落ち方は明らかに変だった」
「そうだ。すずねちゃんを中心に雷が落ちた……まるで……」
ルトは一瞬、言うかためらった。
だが、大将の目をじっと見て話しを続ける。
「まるで、すずねちゃんの意思で雷が落ちたかのように」
「……そんなことがあり得るのか?」
「俺も信じられない。だが、猫又が居たの覚えているか?」
「もちろん」
「すずねちゃんが猫又を見た瞬間、そいつにどでかい雷が落ちたんだ」
「……」
大将は言葉が出ないのか、信じられないという顔をしながらルトを見る。
だが、ルトは全く笑わずに続ける。
「そのあと、すずねに近づこうとした俺も雷に打たれた。
それも二回だ……それで気絶してしまったがな」
「それですずねちゃんは、自身のせいでルトがけがをしたと思って、
ルトにおびえるような感じだったってことか」
「たぶんな……」
ルトはおちょこに日本酒を注ぎながら呟くように話す。
「なぁ……大将。すずねちゃんは……」
「いったい何者なんだ?」
「……」
ルトの質問に大将は黙る。
そして何かの答えが決まったのか、ゆっくりと口を開いた。
「俺の……家族さ」
「!!」
大将の回答にルトは目を見開いてニコリとする。
そして大声で笑った
「ガハハ!!そりゃそうだ!!間違いねぇな!!」
ルトは笑顔のままとっくりを持って、置いてあった自身のおちょこに日本酒を注ぎ、そのまま大将の持っているおちょこにも注いだ。
そして大きな声で叫ぶ。
「大将の家族に……乾杯!!!」
「乾杯!!!」
チン
大将もルトも笑顔でお互いのおちょこを当てた。
~第一章 『祠外側の修復編』 閉幕~