大将はニコニコしながら、土鍋に炊いたご飯を大きなお皿の上に移し替えて、少し冷ましつつ話す。
「前は俺が作ったけど、せっかくだからみんなで作ろうかなぁと。二人とも手を洗ってきて!」
「はーい!!」
すずねはニコニコしながら慣れた感じで厨房の中で手を洗う。
ただ、ルトは少しもじもじしながら大将に尋ねる。
「大将……本当に俺でもできるのか?」
「ルトさんにしては珍しい。いつも、『ガハハ!!やってやろうじゃないか』とか言いそうなのに」
「俺は生まれてこの方、ご飯なんて作ったことが無くてな……」
ルトは話すごとに小さな声になっていく。
手を洗ったすずねが現れ、3本の尻尾が同じようにゆらゆら揺れながらゆっくりとルトに話しかけた。
「ると。いっしょにつくろ?」
「わたしは……」
「みんなでにこにこしながら……」
「ごはんをつくってたべたいな!」
すでにニコニコしていた。
それを見たルトはつられてニコニコしていつもの大きな声で笑って話す。
「ガハハ!そんなに言うなら、やってやろうじゃないか!!」
「うん!!」
ルトもカウンター奥の厨房まで行き、手を洗う。
その間に、大将はおにぎりを握るための物一式をテーブルに並べた。
すずねもルトも腕まくりをして大将の元に向かう。
そんな二人に大将は笑顔で話す。
「ここに少し冷ましたご飯があるから、こうやって……」
大将は手にご飯を持ち、おかかをそのご飯の真ん中におく。
両手でそのご飯を包み込み手際よく、くるくるとおにぎりが手の中で踊る。
そして手を開くと、綺麗な三角のおにぎりができていた。
そこに海苔を1枚巻き付けた。
「はい!おかかのおにぎりの出来上がり!!」
「「おおぉぉぉぉ!!」」
すずねとルトは目を輝かせながら声が漏れる。
大将は少し恥ずかしいのか少し顔を赤らめつつ、話す。
「そしたらすずねちゃん、やってみようか」
「うん!!!」
すずねは大将と同じく手にご飯を持とうとする。
「あちち!!!!!」
ご飯を皿の上に戻し、手を冷ますためかふーふーとする。
大将は首を少し横に傾けて、同じようにご飯を手に持つ。
「……そんなにも熱いか?」
「たいしょう、ふつうじゃない」
「どれどれ……」
そんな二人のやりとりにしびれを切らしたのか、ルトもご飯を手に取る。
「……全然、熱くないぞ」
「やっぱり、そうだよね」
「あれ?そんなはずは……」
再びすずねはごはんを手に取る。
「あちち!やっぱりあついよ!!」
「あはは!!!」
「ガハハ!!!」
さっきと同じくご飯を皿の上に戻し手をふーふーした。
その様子が面白かったのか、大将とルトは大きく笑う。
すずねは少し怒っていたが、二人の笑う姿につられて笑い始める。
「あはは!!ひどいよ!二人とも!!」
「あはは!すずねちゃん、ごめんよ!」
「ガハハ!!嬢ちゃん、すまんな!!」
三人はそうして、げらげらとひとしきり笑った。
そして、少しご飯を冷ましたのちすずねもルトもおにぎりを作り始めた。
すずねは鮭、ルトは梅干しを入れて、握ろうとする。
「えい、えい……」
「ふん!ふん!!」
二人は大将の真似をする。
だが、すずねが握ったおにぎりはボールのように真ん丸に、
ルトが握ったおにぎりはおせんべいのように平べったくなっていく。
「「できた!!!」」
二人は、自分たちの握ったおにぎりをお皿の上に載せた。
そして各々のおにぎりを見て笑い合う。
「あはは!!るとのやつ、おせんべいみたい!!」
「ガハハ!!嬢ちゃんのなんて、ボールみたいじゃないか!!」
二人は再びゲラゲラと笑う。
その二人を見てにやにやしつつ、大将は1枚ずつ海苔を手渡しつつ話す。
「二人とも、いいおにぎりじゃないか。みんなで食べようか」
「わかった!!」
「おう!!」
二人は海苔を大将から受け取り、自分が作ったおにぎりに張り付ける。
大将も自分で握ったおにぎりを手に取り、三人は声をそろえて叫ぶ。
「「「いただきます!!!」」」
三人とも笑顔で各々のおにぎりにかぶりついた。