すずねの拒絶の言葉を聞いた大将はゆっくりとすずねの方に進んだ。
そして何も話さず、同じ方向を向くように横に座った。
大将は前を向いて何も話さない。
すずねは下を向いてうずくまりながら何も話さない。
すすり泣く声だけが暗い部屋を包み込み、時間は過ぎて行く。
大将は本当に小さな声で、独り言のように呟いた。
「ねぇ……すずねちゃん」
「ピクニックに行った日のこと、覚えてる?」
「……」
「晴天の日に、広い芝生で走り回った」
「勇者のアイルと魔王のルヴィアさんがいて、みんなでいろんなサンドイッチを食べた……あの日のこと」
「……」
「俺はね……あんな日々が当たり前にくれば、それだけでいいんだ」
「あんな日々が来るのであれば、別に途中に何があっても気にしない」
「……」
「みんなで笑って」
「おいしいご飯を食べて」
「追いかけっこして」
「晴天の下で寝転がる」
「それがみんなでできるのであれば、途中は何だっていいんだ」
ひっく……
すずねのすすり泣く声は次第に嗚咽と変わり、体が上下する。
その変化も気にせず、大将は呟き続ける。
「たぶんこの思いは……みんな思っていることだと、俺は思っている」
「もちろん喧嘩をすることもあるし」
「意図せずに、誰かを傷つけてしまうこともある」
ひっく……
「もしかすると自分のせいで、他の人にたくさんの迷惑をかけることだってある」
「でもね……」
「最後にみんなと共に笑っていられるのであれば、途中はどうだっていいんだよ」
「それだけ……その一つだけは、すずねちゃんにわかってほしいかな」
「わ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!!!!!」
すずねはせきを切ったように大声を出して泣きはじめた。
「ごめ゙ん゙な゙ざい゙!!!!!!!!!」
叫びながら、横にいる大将に抱き着いた。
大将も抱きしめて愛しそうに頭を撫でる。
すずねは思いのままに叫び続けた。
「ごわ゙がっ゙だの゙!」
「わ゙だじの゙ま゙わ゙り゙の゙びどがみ゙ん゙な゙だお゙れ゙で」
「だい゙じょ゙ゔも゙……る゙ども゙……」
「わ゙だじの゙ぜい゙で」
「ううん。すずねちゃんのせいじゃない」
大将はきっぱりと、それでいて優しい言葉で否定する。
そして思いのこもった言葉を繰り返す。
「すずねちゃんのせいじゃないよ」
「あと、今……言ったじゃないか」
「最後にみんなが笑えればいいんだよ」
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!」
すずねは大声をあげて泣き続ける。
大将は、すずねが泣き止むまでずっと抱きしめて、頭を撫でていた。