大将はノックの音に少し驚きつつ、声を出す。
「どうぞ」
「!!……お邪魔します」
外からは少し驚いたような声が聞こえ、扉が開いた。
そこには黒の服装で、頭に角が二本生えた高身長の女性が立っていた。
部屋の中に入りながら女性は尋ねる。
「大将!!お体は大丈夫ですか?」
「魔王の側近のアクアさん。まぁ、なんとか生きてるよ」
「本当に良かった……心配したんですよ」
アクアは安堵の表情で大将に話しかける。
大将は少し恥ずかしいのか、ぽりぽりと頭をかきながら話す。
「ごめんね、心配かけちゃって」
「いえ……生きているならそれで問題ないです」
アクアはほっとしながら答える。
大将はアクアに少し慌てた様子で尋ねる。
「あの……すずねちゃんがどうしてるか知ってる?」
「そうですね……」
「……?」
その質問にアクアは少し悩む。
なぜかその答えがすぐに返ってこないことに大将は不思議そうな顔をする。
それを察したのか、アクアは答える。
「すずねちゃんの体は問題ないです」
「それはさっきアストラさんにも聞いた。で、どこにいるの?」
「大将のお店ですね」
「そうか。よかった。すぐに会いに行かないと」
大将は動こうとする。
だが、点滴用のチューブがつながっているのか、満足に動くことができない。
「アクアさん、これ取ってくれないかな?会いに行きたいんだ」
「大将、それは……おすすめできません」
「えっ」
きっぱりとした拒絶に言葉に大将は驚く。
アクアは大将の目をしっかりと見ながら話しかける。
「すずねちゃんは今、とても苦しんでいます」
「苦しんで……いる?」
アクアからでた言葉があまりに意味が分からないのか、大将はかなり戸惑っている。
それでもアクアはまっすぐ大将をじっと見つめながら話す。
「そうです。苦しんでいます。ただ、それを大将が理解するためには……
もう一度、西地区まで行かないといけません」
「……西地区って、すずねちゃんが拉致されたところじゃ……」
「そうです。そこに先に行ってくれると約束してくれるのであれば、
私がお連れ致しましょう」
「……行く前に一つだけ。どうして行かないといけないのか教えてほしい」
大将もまっすぐアクアを見つめて話す。
アクアは開いている窓まで歩いて、外を見ながら話す。
「大将。あなたは刺されて気絶した後のことを何か知っていますか?」
「……いや、何も」
「もし、そのことがすずねちゃんを苦しめているとしたら?」
「!!!」
大将は目を見開く。
そして呟くように話す。
「確かに……あの状況で俺も、すずねちゃんもどうして助かったんだ?あとルトは?」
「ルトは元気にぴんぴんしてますよ。あぁ見えても屈強なドワーフなので。
貴方が気絶したその後に何が起ったのかを知るために西地区に行ってほしいのです」
「……わかった。連れて行って欲しい」
大将の返事にアクアはにっこりする。
そして何か魔法を唱え、手に緑の光が宿る。
その光を大将の刺された胸のあたり所にその手を乗せる。
すると、胸のあたりに緑の光が残った。
「一時的な処置です。ご無理はなさらないように」
「わかった。ありがとう」
アクアは大将に話しながら、点滴用であろう針やチューブを抜いていく。
大将についていた針は全て取り除いた。
アクアは少し悪い顔をしながら大将に小さな声で話す。
「絶対に病院の人には怒られるのですが……」
「……俺が無理を言ったっていうから」
「ふふっ!お願いしますね!!」
大将は少し顔を渋くする。
それを見たアクアは少し笑いながら再度魔法を詠唱し、大将より一回り大きいレンガのようなものでできた赤いゴーレムを召喚した。
「ゴーレムよ。大将を連れて行ってくれないか?」
「ご命令とあれば」
ゴーレムは流暢な言葉で話し、大将を持ち上げてお姫様抱っこする。
大将は抱っこされたことにかなり戸惑う。
「えっ、俺ってこの体制のままいくことになるの?」
「そうですよ。体動かせないでしょ……さっ、病院の先生にばれる前に行きますよ!」
「嘘でしょ!!!」
大将の叫びむなしく、アクアは窓から飛び降りて病院を脱出した。
それに続いて、大将を抱っこしているゴーレムも病院を脱出した。