すずねに大将がもたれかかる形になる。猫又は短剣を引き抜いて呟いた。
「はぁ、手間かけさせやがって。次は……お前だ」
猫又はそのまますずねの方に歩こうとする。
ただ、ルトが叫びながら斧で猫又に襲い掛かる。
「きさま!!大将に何をやりやがった!!!!」
それを猫又が短剣でさばき、二人は戦闘になる。
すずねは、倒れてきた大将を抱きしめる形で支えながら叫ぶ。
「ねぇ、たいしょう……たいしょう!!!」
すでにすずねの目には涙がたまっている。
大将は力が入らないのか、すずねに体重を乗せている状況で口から血吐く。
そしてその血のせいでむせつつも、そのまますずねの耳元で声をかけた。
「ゴフッ……ゲホ……すずねちゃん、大丈夫か?」
「わたしより、たいしょうのほうが......
どうして……どうして、わたしなんかをたすけるために??」
すずねは状況に混乱しつつも、大将に尋ねる。
その言葉に大将はニコッとして、すずねの頭にポンと手をのせる。
そしてゆっくりと撫でながら、とぎれとぎれの言葉を呟く。
「なんか......じゃないよ......」
「出会った期間は......まだ......短いかもしれない......けど......」
「これだけ......一緒にいて.......」
「いっぱい......お店も手伝ってくれて......」
「一緒に......ご飯も......食べて......」
「一緒に......布団で......寝て......」
「当たり前じゃないか……すずねちゃんは......」
「俺の......大切な......本当に大切な.......家族だから……ね」
大将はそう言うと、全身の力が抜けたかのようにすずねの腕をすり抜けて地面に倒れ込む。
倒れ込んだ一帯が血の海になる。
後ろから追いかけてきたオークが立ち止まり、大将とすずねの状況を見て頭をかきながら呟く。
「ちっ、結局こうなっちまったか。悪いな嬢ちゃん」
そう言うと牛刀を構える。
そんなオークには目もくれず、すずねはしゃがむ。
手首が縛られた状態で倒れた大将の胸を、何度も力なく叩きながら叫ぶ。
「たいしょう!たいしょう!!!」
「ねぇおきてよ……いっしょにいてよ!!!」
「どうして、はじめてかぞくっていってくれたのに!!」
「さきにいなくなろうとしているの!!」
そして大粒の涙を流しながら、声になっていない声で大将に向かって叫ぶ。
「わたしは、まだたいしょうになにもできてない!!!」
「かんしゃもつたえれてない!!!」
「ごはんもつくってあげれてない!!」
「それなのに.......どうして.......」
叩くのをやめるものの涙は止まらず、
横たわった大将に向かって、誰にも聞こえないような小さな声で呟く。
「おねがいだから……」
「わたしをまたひとりにしないでよ……」
その声に大将はピクリともしない。
それを見たオークはバツが悪そうな顔をしつつも、すずねに近づく。
「やれやれ……今回の仕事ほど胸糞悪いのはないな。恨むなとは言わない。
あっちの世界で二人仲良くやってくれ」
オークは牛刀を振り上げる。
ゴロゴロ……
バリン!!!!
空を引き裂くような轟音が辺りを震わせ、オークの目の前に雷が落ちた。
さっきまで良かった天気も、暗雲が立ち込めている。
「う.......うわあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
すずねは上を向いて叫んだ。
その感情に呼応するかのように、雷がすずねの周りに降り注いだ。