大きな音と光にごつい男と華奢な女は叫ぶ。
「クソ……まぶしくて何も見えない!!!」
「あの野郎!!」
二人とも目を閉じ、一瞬怯んだ。
すると、どこからともなく背中に斧を背負ったルトが走ってくる。
「うぉぉぉぉ!!!!」
ルトは叫びながらごつい男に突進し、押し倒す。
そして大将もすぐに目を開き、華奢な女の方に突進した。
「邪魔だ!」
「ぎゃあ!!」
華奢な女は突き飛ばされ、掴んでいたすずねの腕を離す。
そして、そのすずねの腕を大将は掴んで叫ぶ。
「すずねちゃん、走るよ!!」
「!!!」
すずねも光と音で苦しんでいるものの、
大将の声が聞こえたのか、目をつむりながらも頷いた。
そして大将は元来た方向にすずねと一緒に走った。
ルトも大将が走り始めたのを見て同じ方向に走り始めた。
混乱している二人を置いて、どんどん距離が離れていく。
大将とすずね、そしてルトはがれきの間を走り抜けていく。
大将は後ろを向いてルトもついてきてることを確認した。
「はぁ、はぁ……良かった。どうにか逃げれそうだ……
すずねちゃん、大丈夫?」
コクッ
すずねはまだ衰弱しているのか返事はできないようだが、
黙ってうなづいた。
それを見た大将は安心する。
「まさか、即席で考えた作戦が成功するとは……
ルトからもらった閃光玉が役に立った。これでとりあえずはどうにかなりそうだ」
大将は走りつつも、何かを思い出しているようだ。
◆◆◆
時刻は14時。
店の中にいる大将とルトは、机を挟んで真剣な顔で話をしている。
「大将、時間もない。どうやってすずねちゃんを助けるかを考えよう」
「とはいうものの、敵の数も武器も何もないこの状況でどうするか......」
「とりあえず、敵の数は少ないと思っていいと思うぞ」
「......どうしてだ?」
大将は眉をひそめてルトに聞く。
ルトは答えるのが少し悔しそうにしながら話す。
「俺は大将の店の横にある祠の扉を付けていた。
で、すずねちゃんは店から祠までの間で拉致された。
ということは、もし大勢でなんかやっとったら俺は気づいていたはずだ」
「確かに。ちなみに怪しいやつとかは居なかったのか?」
ルトは首を横に振る。
「この店の前の通りは人通りもそれなりにあるし、流石に覚えてはない。
逆に言えば、普段と同じぐらいの人通りしかなかったということだから、
そんな大勢ではなかっただろうて......俺がその時にすずねちゃんに気づいていれば.......」
「起こったことを気にするより、今どうするかに集中しよう」
大将はルトに話しかける。
ルトはゆっくりと縦に一度頷き、話を戻す。
「会う場所に敵の仲間がいる可能性も否定はできないが、
すずねちゃんを捕まえるのに大勢とは正直思えない」
「なら、とりあえずは2~3人として考えるか」
「そうだな。でだ、その人数なら俺に一つ策がある」
「?」
ルトは自身の腰あたりに手を回す。
そして何かを取り、机の上に置いた。
そこには上に赤いボタンのついた丸い玉が置いてあった。
「これを渡しておこう。俺は斧を持っているからそれで戦うが、大将は戦うのは向いてないからな」
「これは?」
「閃光玉だ。上のボタンを押して投げれば、光と音で相手を足止めできる」
「......どうしてこんなものを持っているだ?」
「ドワーフは色々な鉱山に鉱石を取りに行くんだが、その時に魔物に合うことがある。
友好的だといいんだが、全員が友好的とは限らないからな」
「なるほどね」
大将は赤い玉を一つ手に取る。
持った時に少し驚く顔をする。
「......軽い」
「まぁ、最新式の魔術組み込み型だからな」
「なら、俺でも投げれそうだ」
「どうしても困ったときに使ってくれ。これは1つしかストックがない」
「わかった」
大将は赤い玉をポケットに入れつつ、さらに尋ねる。
「落ち合う時どうすればいい?」
「そうだな......」
ルトは腕組みをして悩みつつ、口を開く。
「今回、大将は一人で会わないといけない。
であれば、俺は他のルートでばれないように近づくしかない」
「そうだな。ただ、ルトが近くに来たことはどうやって知ればいい?」
「......あそこらへんにはがれきが大量にある。がれきを投げよう」
「そんなんで本当に大丈夫......なのか?」
大将は心配そうにルトに尋ねる。
ルトは大きく首を横に振り、大将の目を見て話す。
「大丈夫とか関係ない。俺たちはどうにかするしかないんだ。
そもそも、この短時間で完璧な作戦は無理なんだ。
実際、俺が近くに来たことを知らせても、どうにもならないかもしれない。
そうであっても、俺たちは......すずねちゃんを助けるしかないんだ」
「ハァ.......確かにそうだ。わかった」
大将は大きく息を吐きつつ、ルトに答える。
ルトは頷き、再び腰のあたりに手を持っていく。
そして再び何かを机の上に置いた。
「大将、これも持っていけ」
「......これは?」
「念のためのお守りだ。これはな......」
◆◆◆
何かを思い出した大将は走りながら再び自身のコートのポケットに手を入れる。
そして何かの感触を確かめているようだ。
すると、大将の目の前に人影がサッと現れる。
「お前ら!!!!!!」
走っていた大将の目の前に、信じられないスピードで華奢な女が現れた。
大将は行く手を防がれ、立ち止まる。
華奢な女はさっき突進されたためか、仮面の上半分が欠け、
頭から被っていたローブも頭部分は肩まで落ちていた。
華奢な女の顔は猫のような目と耳がついていた。