西地区の人里離れたとある場所。
この場所は周り一帯が手付かずになっており、
家は上半分が無かったり、塀もほとんどが欠けていた。
もちろん、人の気配は全くない。
ただ、その中でもたった一つの廃墟だけはギリギリ形を保っていて、
この場所を示すシンボルのような建物となっていた。
とはいえ、廃墟の中はいたる所にがれきが散乱しており、
天井もなく、吹き抜けになっている。
天気は良いのか、空は雲一つなく晴れているものの、
すでに太陽は落ちて、だいぶ暗くなっていた。
仮面をつけ、頭から黒いローブをまとっている二人が、がれきに座っている。
顔は仮面で隠れてわからないが、がたいがごつい人と華奢な体つきの人のように見える。
その横には両手を前にした状態で手首を縛られて、身動きが取れないすずねがいた。
ごつい方が華奢な方に話している。
「おい、本当に来るのか?」
「知らないね。来なけりゃこいつを始末するだけ。それが今回の仕事......」
声のトーンからごつい方が男、華奢な方は女のようだ。
その声を聞いたすずねは顔を真っ青にする。
耳も尻尾もペタンとして、全く動かない。
「それもそうだな。俺たちはただの雇われだし」
その言葉に華奢な女が黙って頷く。
すると、遠くからガラガラと馬車の引く音が鳴る。
そして二人から見えない所で止まった。
その音を聞いた二人は黙って立ち上がる。
ざっざっ……
一人の足音が遠くから響く。
華奢な女がすずねの腕を引っ張って立たせる。
すずねは足腰に力が入らないのか、よろよろと立ち上がる。
遠くから、いつもの白い割烹着ではなく、
黒のロングコートを来た大将が一人で歩いてきた。
手はポケットの中に突っ込んだままであり、
顔もこれまでに見たことが無いほど怖く、目も全く笑っていない。
そして、声が届くぎりぎりまで近づいて大将が口を開いた。
これまでに聞いたことのない低い声で話す。
「時間どおりに来た。すずねちゃんは無事だろうな?」
「あぁ。お前が何もしない限りはな」
ごつい男が数歩前に出て話す。
それを聞いた大将は尋ねる。
「時間がもったいないからさっそく本題にいこう。何が目的だ?」
「要求はたった一つ。お前の店をやめてもらいたい」
「……」
大将は顔色一つ変えずに黙る。
何かを考えているようだ。そして少し経ったのち口を開いた。
「それは......難しい相談だな」
「……なら、この小娘にはこの世からさよならしてもらうことになる」
「たいしょう……」
すずねは誰にも聞こえない声で呟く。
聞こえていないはずだが、すずねの姿を見た大将は唇を噛みしめた。
そしてまっすぐ仮面の二人を睨みつけながら尋ねる。
「……どうしてこんなことをする?」
「なんだと?」
「俺が店をやめて何になる?俺の店に恨みでもあるのか?」
ごつい男は華奢な女を見た。
華奢な女は首をクイッとあげた。
それを見たごつい男は答える。
「知らねぇな」
「……金か」
「否定はしない。これが俺たちの生業だ」
「お前たち二人……のか」
「そうだな」
その答えを聞いた大将はゆっくりと、そして大きく首を横に振った。
そして続けて尋ねる。
「ここで俺が店をやめると言えば、それでいいのか?」
「そりゃ……そうはならないな」
「ならどうすればいいんだ?」
ごつい男はさらに一歩前に出た上で、懐から大きな牛刀のようなものを取り出す。
「とりあえず……腕の一本でもいだたくとしよう」
「なるほど。そうきたか」
「お前の腕一本とこいつが交換ってことだな」
「……であれば、すずねちゃんが無傷か見せてもらおう」
大将も二人に近づく。
ごつい男まで3mぐらい、華奢な女まで5mぐらいの場所まで歩いた。
「おい、それ以上近づくな」
ごつい男は牛刀を構える。
大将は立ち止まる。
どちらも一言も話さず、時が過ぎる。
どこかで石が転がったのか、カランという音が鳴る。
だが、二人ともに何も話さない。
数分後、ごつい男は何も進展しない状況に嫌気がさしたのか、口を開く。
「でどうする?お前の腕一本を犠牲にしてこの場を収めるのか……
お前とこいつの二人とも死ぬのか。決めたか?」
「……」
大将は静かに目を瞑る。
そして叫んだ。
「両方とも断る!!!!」
そしてポケットから手を抜き、丸い何かを目の前の二人に向かって投げた。
その瞬間、大きな音と光が一面を覆った。