大将は料理の手を止めて、不思議そうにルトに尋ねる。
「あれ、すずねちゃんは?おにぎり持たせたけど......」
「いや、俺は会ってないよ。あとこれ、なんか店の前に落ちてたから拾って来た」
ルトは右手を差し出す。
そこには手紙があり、『ゆうなぎの大将へ』と書かれている。
「なんだこれは……」
そう言うと、大将はその手紙を開く。
大将の顔が一瞬にして凍る。
その手紙には、短くこう書かれていた。
『妖狐はあずかった、返してほしければ一人で西地区の荒れた廃墟まで来い。
期限は、今日の17時までとする』
大将の顔が凍ったのを悟ったのか、ルトは手紙をぶんどってみる。
そしてルトの顔も凍った。
二人は共に時計を見る。
時刻はすでに14時を回っていた。
大将は何も言わず、バタバタと荷物をまとめ始める。
その様子を見たルトは止めようとする。
「おい待てよ!大将一人でどうするつもりだ!?」
大将はルトの言葉で手を止めることなく準備を続ける。
リュックに何かを詰め込み、それを背負った。
「すまん!行ってくる!!」
「おい!話を聞け!!!!」
ルトは大将の腕を取る。
大将は腕を外そうとするが、ルトの腕力が強いのか外れない。
そんなルトに対して大将は怒鳴る。
「おい!!早くいかせろ!!」
「だから待てって。お前、そもそも西地区の荒れた廃墟がわかるのか?」
「そこらへんの人に聞けばいい!!」
「この……馬鹿野郎!!!」
ルトは腕力だけで立っていた大将の態勢を崩して抑え込んだ。
大将は床で動けなくなっているが、バタバタと暴れる
そしてそんな大将にルトは諭しながらも怒鳴った。
「大将!すずねちゃんが心配なのはよくわかる!!
時間がないのもわかる!!
焦っているのも、気が動転しているのも!!
だから……頼むから今だけは話を聞いてくれ!
俺は西地区の荒れた廃墟がどこか知っている!!
過去の戦争で未だ廃墟になっているところだ!!!」
大将はその言葉を聞いて、バタバタするのをやめた。
そして泣きそうになりながらルトに話しかける。
「ルトさん……俺はどうすればいい?」
「泣くな!!!!今は1分でも時間が惜しい。
泣くのはすずねちゃんを助けた時でいいだろう!!」
「あぁ、確かにそうだ」
バチン!!!
大将は自分の顔を両手で力いっぱい叩いた。
大将の顔は真っ赤な手のひらの形が残る。
そしてさっきとは別人のような鋭い顔つきでルトに聞く。
「ルトさん、慌ててすまなかった……」
「謝るのも後だ。西地区の荒れた廃墟まではここから2時間ぐらいかかる。
つまり、俺たちに残された時間は1時間もない」
「ふぅ……」
大将は目を閉じる。
何を考えているのかは誰もわからない。
数秒後目が開かれる。
「ルトさん、頼む。助けてくれ」
「当たり前だ!!作戦を練るぞ!!」
二人はテーブルに座り、話を始めた。