すずねが終戦記念日について尋ねたことに対して、大将がルトに補足を入れる。
「今日が終戦記念日ってことは知ってるんだけど、
俺はこっちの世界の人間じゃないから詳しく知らなくて。
すずねちゃんも知らないらしいから、是非教えて欲しいなぁと」
「大将が知らないのはわかるけど、嬢ちゃんも知らないのか……まぁいいか」
すずねとルトは机に座った。
大将はカウンター奥に行った後、湯呑みとお椀型の木の容器に何かを入れて持って現れた。
「まだ朝だけど、休憩ってことで。はい、おせんべいと煎茶」
「たいしょう、ありがとう」
「ガハハ!俺はまだ何もやってないがな。ありがとよ」
すずねとルトはお茶を受け取る。
大将は容器を机の真ん中に置き、すずねの横に座った。
ルトは口を開く。
「時間もないから、簡単に話すけど……
元々長い間、人間と魔族が戦争をしていたことは知ってるよね?」
「まぁ、薄々は。終戦記念日っていうぐらいだからな」
「じゃあ聞くが、どれぐらいの期間、戦争していたと思う?」
「10年とか?」
「……はぁ」
ルトは大将の回答に呆れたのか、少しため息が出る。
そして答える。
「約1200年だよ」
「1200年!?」
「そうだ。その間ずっと人間と魔族は喧嘩してたってことさ」
ルトはお茶を飲む。
それを聞いたすずねが不思議そうに聞く。
「どうしてそんなにながいあいだ、たたかっていたの?」
「……正直わからねぇな。俺も生まれたころは人間が敵だと習ってたから」
「そんなものなの?」
「あぁ、そんなものさ」
ルトはせんべいをバリバリと食べながら当たり前であるかのように答える。
おいしいのか、ニコニコしながら次々と食べている。
「ということは、ルトさんが生まれたときは戦争してたってこと?」
「そうだが……大将、お前さん俺のこと何歳だと思ってる?」
「うーん」
じっとルトの方を見て大将は答えた。
「30から40歳ぐらいかなぁと」
「おいおい、そりゃないだろ」
「ると、20さい?」
「……俺ってそんなにガキに見えるのか」
ルトはガックシと肩を落とす。
そして叫ぶように話す。
「122歳だよ!」
「……そんな冗談いわれてもねぇ」
「ると、うそはだめだよ」
「……」
二人から言われてさらに肩を落とし泣きそうな顔になる。
そして諭すように話しかけた。
「大将は知らないとは思うが、ドワーフ族の平均寿命はざっくり300年なんだ」
「そんなに長いのか!?」
大将は目を見開いて驚く。
「それはすまなかった。人間基準で話してたから」
「まぁそうだと思ってたよ。俺らにとって30歳なんてただのガキだからな。ガハハ!!」
ルトは大きく笑った。
それを聞いたすずねが尋ねる。
「つまりるとは、せんそうをたいけんした?」
「あぁ、もちろんだ」
「どんなんだったの?」
さっきまで笑顔だったルトが急に真顔になって答える。
「年によって大きく異なったかな。
正直休戦で平和な時期もあれば、本当に悲惨な時もあった……
ただ、今だから言えることは一つだけある」
「なに?」
まっすぐな目ですずねは質問する。
ルトその目を見て、にこりとして答えた。
「今の平和な世の中の方が絶対に良いってことさ。
人間と魔族が戦っても何も生み出さない。
でも、人間の親方と魔族の俺が協力すれば、こんな扉も作れるんだからな」
「……」
「そうだね」
ルトの言葉に大将は黙って聞き、すずねもこくりと頷いた。
ただ、何か一つ納得がいかないのか、続けて尋ねた。
「ねぇ……きょうは、しゅうせんきねんびなんだよね?」
「そうだが?」
「どうしてせんそうがおわったの?」
ルトはニヤッとして話す。
「今の勇者の野郎と魔王様のおかげさ」
「ふーん。あのふたりってすごいんだね。とくにあいる」
「がはは!そうだな。まぁ、あいつじゃなければ間違いなく終戦はしてなかっただろうぜ」
大きくルトは笑って答えた。
大将は何かを思い出し、苦笑しながら話す。
「まぁ、右も左もわからなかった俺に対して、
一番初めに仲良くしてくれたからなぁ……」
「まぁ、そういうこった」
ルトは頷いた。そして立ち上がる。
「まぁ、どうやって終戦したとかはまたあの二人にでも聞いてくれ。
俺も細かいところまでは知らないからな。
さて……この扉でも付けに行くか」
「そうだった、ぜひお願いします。また昼ごはんにおにぎり持っていきますね!」
「おう、楽しみにしてるからな!扉は任しとけ!!」
ルトは引き戸をガラガラと開けて出て行った。
「さて、俺たちも夜の開店に向けて準備しますか!」
「うん!!」
そしていつも通り店の準備や片づけをはじめる。
大将はルトに渡すためか梅干し入りのおにぎりを準備をし終える。
それを見たすずねがいつも通り大将の元に行く。
「るとにもっていく!!」
「あぁ、お願い。頼んだよ」
すずねがおにぎりをもって、引き戸をあけて出て行った。
大将はその間も夜の開店に向けて準備をしていた。
少し時間が経ったのち、引き戸が開けられた。
それを大将は見ずに話しかける。
「すずねちゃん、お帰り。少し時間かかったね」
「大将......扉、取り付けたけど……おにぎりは?」
そこにいたのは、すずねではなくお腹を空かせたルトだった。