とある快晴の日。
巨大都市『リアナ』はどこも華やかな雰囲気になっていた。
街の中には露店がたくさん出ているうえ、
煌びやかな装飾がいたるところにつけられている。
そして、特徴的なのはどこの家の玄関にも国旗のような小さな旗が二本かけられていた。
一つは右手で剣をかかげている人間だと思われる絵が描かれている旗。
もう一つは左手で杖をかかげていて、頭に角がついている魔族だと思われる絵が描かれている旗。
風が吹くと、街の中ではこの二つの旗が意思を持っているかのように揺れていた。
日課の祠に参りに行くために店を出たすずねは、
そんな街の様子に少し驚いていた。
そして、お参りを終えて店に帰る途中に足を止めて大将に尋ねた。
「たいしょう……きょうってなにかあるの?」
「あぁ、今日は終戦記念日らしい」
「しゅうせん?たたかってたの??」
すずねは首をかしげる。
大将は頭をかきながら困ったように話す。
「実は俺も違う世界から来たから、あまり詳しく知らないからなぁ……
今日来た人に聞いてみようか。あと旗はあるから後で一緒に付けようね!」
「うん!!」
すずねのもふもふの尻尾は大きく横に揺れ、顔もにこやかだ。
大将もその様子を見て笑顔になりつつ二人で店に帰った。
店の前に二本の旗を付け、二人は夜の開店に向けた準備に取り掛かる。
そして昼前に店の開き戸がガラガラと音を立てて開く。
「大将はいるか?」
「あぁ、ルトさん。今日はどうしたんですか?」
「いや、これを見て欲しくてな」
ドワーフのルトは布にくるまれた少し大きなものを机の上に置く。
掃除をしていたすずねも興味があるのか近寄って来た。
大将も料理の仕込みをしていた手を止めて近寄る。
「ると、これなに?」
「これ開けていいよ、すずねちゃん」
「いいの?ならあける!」
すずねは布にくるまれた袋を開けた。
その中身を見て大将は息をのみ、すずねは目を輝かせた。
「すごい……」
「とってもきれいで……かっこいい!!」
布の中には木でできた両扉がくるまれていた。
扉の全面に模様が彫られている。
扉の上の方には雲から雨が降っているように見える。
ただ、その雨雲の間から太陽の光がきれいに差し込んでいた。
扉の下の方は、一面の細長いものが風で揺れているように描かれていた。
細長い部分を指さしてすずねが尋ねる。
「ると、これってなに?」
「これか……これはススキっていう植物さ」
「すすき?」
すずねは首をかしげる。
横で聞いていた大将は少し驚く。
「こっちの世界にもススキなんてあったのか」
「なんだい、大将も知ってたのか」
「もちろん知ってるさ。元々いた世界では一般的だったからね。
食材とか植物とか、ほんと時々こっちでも知ってるものがあるんだよなぁ」
「ガハハ!!!珍しいこともあるもんだ。
前に親方のトウカが言ってたが、ススキはこの街のシンボルなんだとよ」
「ちょっとふたりとも、すすきってなんなの!?」
すずねが尻尾をピンと立て、顔を膨らませながら二人の話に割り込んだ。
大将とルトはその姿に苦笑しながら、質問に答える。
「ごめんごめん、ススキってのは植物の一種だね。あまり詳しくないのだけど……
確かイネ科の植物でこの模様のように細くてひょろっとしている。
平地によくみられる植物だったはず」
「ガハハ!嬢ちゃん、すまんな。大将の言う通り、
その植物はこの街のとある場所で見ることができるってトウカが言っておった」
「おっ、それなら一回見に行ってみたいなぁ」
「たいしょう、どうして?」
ニコニコしながら答えていたのが不思議だったのか、すずねは尋ねる。
何かを思い出しながら大将は答えた。
「俺の記憶が正しければ......ススキは夕暮れの時に見に行くと、
夕日の光が反射して一面が黄金色に見えるはずなんだ」
「それってすごいの?」
興味があるのか、二本の尻尾が左右にゆっくりと大きく揺れていた。
大将はすずねをしっかり見てニコッとする。
「それは見てからのお楽しみだね」
「む~……けち」
「ガハハ!俺もその光景は見たことないから、今度みんなで一緒に見に行こうか!」
「るとがそういうなら、わかった」
すずねはしぶしぶ引き下がる。
そしてルトは扉を再び布の袋の中に入れた。
「さて、扉を取り付けに行こうかな」
「ルトさん。少し聞きたいことがあるんだけど、まだ時間ってまだある?」
「お前さんが聞きたいことか……珍しいこともあるもんだ。
今日はこれを取り付けるだけだから別に構わんが、なんだ?」
ルトは大将の方をじっと見る。
すると、すずねが大将の代わりに尋ねた。
「ねぇ……しゅうせんきねんびってなに?」