大将とすずねが同じ布団で寝た次の日。
大将は横で寝ているすずねを起こさないようにして起きる。
そして、毎日の日課の朝ごはんを作ろうとする。
ただ、まだ体調が良くないからか大将は土鍋を用意する。
「体調が完全じゃないうちはやっぱりこれでしょ」
そう言うと、土鍋に米をかなり少なめに入れて、炊きはじめる。
炊きあがるまで椅子に座ってまったりと待っていると、
店の開き戸がガラガラと開く。
そこには心配な顔をした勇者アイルが立っていた。
大将の姿を見て笑顔になって駆け寄って話しかける。
「おい、大将!!頭とか体とか大丈夫だったか!?」
「まあな。何とか生きてはいる」
「そうか……元気そうで本当によかった」
「お前が心配してくれるとはな」
「うるせぇ」
少しほっとしている様子にケラケラと笑いながら、大将が話した。
アイルは指摘されて少し恥ずかしくなったのか手をひらひらさせる。
ただ、大将はアイルに話すことがあるのか話を続ける。
「そうそう、お前のところの戦士さんが助けてくれたからな」
「俺も親方から聞いた。でも俺は正直、戦士がこの店を助けたことは信じられないけど……」
「まぁそうだろうな。出て行くときに『こんな店なんて潰れればいい』って言われたし」
「……」
大将は気にしていないのか、笑いながら言っているものの、
アイルは少し複雑そうな顔をしている。
その顔を見た大将は咳払いをして真面目な顔をしてアイルに尋ねる。
「まぁ、戦士さんの話は置いといて……あの公安ってやつは誰なんだ?」
「公安か……衛兵たちを管轄しているボスみたいなものだな。
普通は何もしてこない無害な奴のはずなんだが。
何か目を付けられることをしたのか?」
「ふむ……記憶にはないな」
大将は必死に考えているように見えるが、何も出てこない。
それを見たアイルは少しため息をついて話しかける。
「まぁいい。一応魔王と話はつけて対策は考えている途中だから」
「はいよ。ありがとう」
「ただ……ちょっと問題があってな」
アイルは言葉に詰まる。そして困った様子で大将に話す。
「実はその対応には時間がかかりそうなんだ」
「俺としては別に構わんが……どうかしたのか?」
「この一件とは全く関係ないのだが、人間界の北の領地でずっと雨が降っていてな。
その対応がバタバタしていて、俺の手があまり回せないんだ」
「そうなんだ……北?」
大将は何かを思い出しているようだ。
不思議に思ったのか、アイルが尋ねる。
「北の領地に何か思うところがあるのか?」
「いや……なにも」
大将は何かを思い出しているようだが、話す様子はない。
アイルも気にせずに大きくため息をしてから大将に話しかける。
「そうそう、親方から連絡があって、扉はもうちょいしたらできるからって。
出来たらドワーフのルトに渡して取り付けてもらうって」
「あぁ、ありがとう。しかし、お金はホントにいいのか?」
「いいさ。この町で人間と魔族の架け橋になってくれたことに比べれば安い物さ」
「そうか。なら遠慮なく甘えさせてもらおう」
お金には全くの無頓着なのか、アイルが全く気にしていない様子に
大将は少し申し訳なさそうに話す。
そして大将は何かを思いついたのか、アイルに尋ねる。
「アイル、お前朝ごはん食べたか?」
「いや。今日は食べてないけど」
「病人食だが、食べていくか?店には絶対に出ない料理だぞ」
「マジで!?レアじゃん。食べる!!」
「あいよ。準備するから、二階にいるすずねちゃんを起こしてきてくれないか?」
大将はカウンター奥の二階を指さす。
アイルは両腕を上にして丸を作り、そのまま二階に消えていった。
大将は火にかけていた鍋のふたを少し開けて溶いた卵を回し入れ、
少し様子を見てから火を止めた。
大将は土鍋ごとテーブル席の真ん中に置いた。
そして空のお碗、のり、かつお節、ホウレンソウ、醤油などを近くに並べる。
すると、元気にはしゃいているアイルと眠たそうに目をこすりながらすずねが2階から降りてきた。
「すずねちゃん。早く早く!朝ごはんだよ!!」
「たいしょう……あいるがうるさい」
すずねは鬱陶しそうに話す。
一方、アイルは全く気にしていないのか、ニコニコしていた。
二人を見て苦笑しながら大将は話しかける。
「すずねちゃん、おはよう。早速ご飯たべようか」
「うん!!」
「よっしゃ!大将の手作り朝ごはん~♪」
三人はテーブル席に座る。
そして大将は土鍋のふたを開けた。
白い蒸気が立ち込め、お米の良い匂いが店一杯に広がる
土鍋の中はお米の白の中に卵の黄色が輝いて見える。
「うわぁ……とってもいいにおい!!」
「大将、朝からこんなおいしそうなもの食べていいの!?」
「あぁ……と言っても、病人食だがな」
大将はお椀におかゆを入れ、その上からかつお節、ホウレンソウなどを入れて
上から醤油をひと回しかける。
全員分の準備ができ、自然と三人は手を合わせた。
「「「いただきます!!!」」」
三人は笑顔のままご飯を食べ始めた。