入って来た男の顔の鼻には口と並行方向に火傷の跡がついている。
「大きな音がしたが、何かあったのか?」
剣を持った男は状況を理解するべく店の中に入る。
飛ばされたすずねとそれを襲おうとしている衛兵、
血を吐いている大将と足から少し血が出ているヴィゼルを見た。
「誰か、どういう状況か教えて欲しいのだが」
「おい、お前。痛い目に遭いたくなければさっさと出ていけ」
ヴィゼルが剣を持った男に忠告する。
3人の衛兵も剣を持った男の方を向く。
眉をピクリともさせずに剣を持った男は答える。
「嫌だと言ったら?」
「はぁ……痛い目に合ってもらうか」
大将を押さえつけさせた時と同じく、右手をあげてフルフルと振った。
3人の衛兵が剣を持った男にとびかかる。
「人を痛めつけるために鍛えたのではないのだがな……」
そう言うと、とびかかった衛兵のうち一人の顔面を右手で軽々つかみ、
バキッ!!!!
そばに合った机の上に思いっきりたたきつけた。
机は真ん中で真っ二つに割れ、たたきつけられた衛兵は意識を失っていた。
一瞬の出来事であったためか、理解ができなかったのか残った衛兵二人は立ち尽くす。
「で、どうするの?まだやるの??」
衛兵は二人とも構えるが、動かない。
するとヴィゼル、衛兵ではない所から声がかかる。
「……お、お前。ガルじゃないか」
「お、トウカか。ちょっと状況を説明してくれないか?」
トウカが話しかけ、ガルと呼ばれた男は知り合いだったのか軽く返す。
その間にヴィゼルが誰にも聞こえない声で呟く。
「ガル……勇者一行の戦士、ガルなのか?」
その声は誰にも聞こえていないのか、トウカが話す。
「急にこの衛兵と黒い男が店に押し入って暴れてるんだ」
「なるほど……」
ガルはヴィゼルの方を睨む。
すると、にこりとしてガルに話しかけた。
「はじめまして、ヴィゼルと申します。ガルさん……とおっしゃいましたか」
「なんでもいい。一つだけ答えろ……この状況はお前の仕業か?」
ガルは周りを見渡す。
散乱している机や椅子。
怯え切っているすずね。
口から出血している大将。
どうしたらいいかわからない顔をしているルトとトウカ。
そして衛兵3人とヴィゼル。
次の言葉を待っているかのように戦士は黙る。
ヴィゼルは何かを考え、口を開く。
「えぇ。私たちがやりました……ただ我々にも理由があります」
「なんだ?」
「この店が悪いものをかくまっているという情報がありましたので」
「……」
ヴィゼルは指をさした。
その方向を見るとすずねはビクッとして、体を震わせている。
それを見た戦士が呟く。
「魔族……か」
「おっしゃる通り。なので、我々がこの町の害虫を駆逐しているという状況です」
「……なるほど」
ガルはそう言うと、ヴィゼルの前まで歩く。
何かに怒っているのか頭に血管が浮き出ている状況で、低い声で話す。
「……今すぐこの店から出ていけ」
「もし、嫌だと言ったら?」
ガルは静かに剣の柄を握る。
「今この瞬間がお前の人生の最後になるかもしれない」
「……帰るぞ」
ヴィゼルは衛兵に命令し、自身は踵を返して店から出て行った。
2人の衛兵は1人のびている衛兵を担いで出て行く。
全員が出て行くのを睨んでみていた戦士は剣の柄から手を離し、トウカに話す。
「トウカ……あとは頼んだ」
「あ、あぁ」
ガルも同じく店から出て行こうとする。
よろめきながら大将が立ち上がり感謝を述べる。
「ガルさんって言ったか……ありがとう」
「お礼はいらない。俺自身は今でもこの店がつぶれて欲しいと思っている。
ただ……俺の友達のトウカが困っているのを見過ごせなかっただけだ」
そう言うと、外に出て行くために歩きはじめる。
すると、ガルの後ろから声が聞こえる。
「ぐすっ……たすけてくれてありがとう、おじちゃん」
「!!!……くそっ!!」
怖さでさっきまで泣いていたすずねが、涙を拭いてガルに感謝を述べた。
ガルはその声を聞いて、一瞬立ち止まったがすぐに店から出て行った。
ガルが出て行ったと同時に大将は糸が切れたかのように倒れ込んだ。