ルヴィアは大将の目をしっかり見て話す。
「過去には9尾の妖狐がいたと書かれていたわ。
でも、その妖狐が『いた』こと以外は何も書かれてないのよ。
他の魔物については事細かに書いている書物なんだけど」
「……つまり?」
「どうすると尻尾が増えるとかは一切書いてないってこと。
元々9尾なのか、尻尾が増えて9尾なのかはわからないの」
「なるほど……」
大将は少ししょんぼりする。
それを慌ててルヴィアが大将の方を向いてフォローする。
「ま、まぁ。私たちも完全に調べ切ったってわけじゃなくて、
書庫を少し漁って調べただけだから。
また、何かわかったら伝えに来るわよ」
「すみません、よろしくお願いします」
「その代わり2つお願い。一つ、あの子に何かあったら必ず連絡を頂戴。
もう一つは……」
「もう一つは……?」
少しためて話すルヴィアに少しおびえながら大将が尋ねる。
ルヴィアの目線は再びすずねの方を見た。
「あの子のあの笑顔はちゃんと守ってね」
「……もちろんです」
二人は追いかけっこをしている二人を少し見ていた。
少し時間が経つと、ぜぇぜぇ言いながら
アイルは座っている二人の元にとぼとぼと歩いて帰って来た。
そしてシートの上に大の字で倒れ込む。
「もう無理!!!すずねちゃん、元気すぎ!」
倒れ込んだアイルの元にすずねが走ってくる。
そしてわくわくしながら話しかける。
「もうおわり?まだまだおいかけっこしよ!」
「むりむりむりむり!!!!!」
「む~」
アイルの言葉にすずねは頬を膨らませて残念なようだ。
それを見たルヴィアが立ちあがる。
「なら、私と遊ぶのはどう?」
「うん!!」
「なら、あの木までかけっこしようか。先に行くね~」
「あっ……まって!!」
ルヴィアは先に走り始め、それをすずねが追っかけていく。
あっという間に、二人の姿は小さくなっていく。
その姿を眺めつつ、大将は話す。
「大丈夫か?」
「大丈夫に見えるか??」
「お前ならまだまだ大丈夫だろう」
「こんなことで体力がなくなるなんて、
俺も平和ボケしてるってことかもな……よっと」
大の字に寝転がっていたアイルは起き上がる。
「うーん、風が気持ちいい……」
「そうだな……」
二人に心地よい風が吹いている。
その風を肌で楽しみながら、アイルが話す。
「そうそう、祠の扉の件、俺の友達に依頼しておいた」
「おっ、ありがと」
「また、今度勝手に祠は見に行くって。あと、ざっくり1~2週間ぐらいだろうってさ」
「おう。その人に是非飯食いに来てくれって言っといて。おごらしてほしいから」
「了解~。俺もタダで食っていい?」
「……」
大将は沈黙する。
それに対してアイルも何も話さない。
ただ、二人の顔は自然とほころんでいた。
ふと何か思い出したのか、大将が話しかける。
「今日はどうしてお前しか来なかったんだ?
魔王の方は側近含め時間が合わなかったって聞いたけど」
「あぁ、魔法使いは興味ないからパス。僧侶は行きたかったらしいけど忙しいって。
あと……戦士はまぁいつも通りあれだから。
魔王やすずねちゃんがいるところに来るとは思えない」
ハァと大きくため息をつく。
「もう少し考えを柔らかく持ってほしいものだけど。今日もたぶん剣を振ってると思う」
「……勇者一行でまだ戦士さんだけは見たことないからな」
「そりゃそうだろ」
当たり前のことを聞くなという顔で大将を見る。
大将は不思議そうに尋ねる。
「それはやっぱり……魔族が嫌いとか?」
「まぁな。そこは触れないでくれ」
「あぁ、わかった」
アイルはきっぱりと拒絶する。
大将も深くは聞かずに前を向く。
二人とも遠くの方を再び眺めた。
よく見ると、遠くからすずねが走ってこちらに来る。
その後ろをへとへとになったルヴィアが追いかけている。
「おーい!!」
すずねは両手を大きく振りながら大声で叫んでいる。
それを聞いたアイルは立ち上がり、叫ぶ。
「おーい!!俺もそっちに行くわ!!!」
そしてアイルは全力で走って行った。
大将も腰を上げ、アイルのあとを追いかけて走った。