大将はアイルの真面目な顔に応じるように少し真剣な目をする。
「この店の横の祠見たけど、綺麗になってるじゃん。あれ、誰がやったの?」
「ルトさんが助けてくれてな」
「ルト......あの鍛冶屋のドワーフ、ルトか!?」
アイルは目を見開いて驚く。
「えっ、アイルもしってるの?」
「お前......知ってるも何も、鍛冶屋界ではかなり有名だぞ。
魔族の中でもピカイチの腕を持っていて、魔王の剣を打ったはずだ」
「へぇ......有名人だったとは」
大将は知らなかったのか、少し驚いているようだ。
「で、話を戻すが......祠の中はなんで中には何もないんだ?
そもそも扉も見当たらなかったが」
「いや、中の物もどうにかしたいんだけどその扉がね……」
「扉がどうかしたのか?」
「現状、扉を作れる人を探し中なんだよ」
少しため息をつきながら大将は話を続ける。
「ルトさんに一度お願いしたことあるんだけど、
『元あったのはかなり綺麗な模様が彫られてた。儂には無理』
って言われて断られちゃった。そんな有名な人でも無理ってなると、
やっぱり難しいかなぁ......」
大将が本気で悩んでいるにもかかわらず、
アイルはポカンとしている。
「えっ、そんなことで悩んでるの?扉の装飾でしょ?
俺の知り合いで良ければ紹介するよ」
「ホント?」
「もちろん!」
親指を上に立ててグッとする。
「たぶんだけど、ドワーフはあまりそういう装飾とか得意じゃないのかも。
逆に人間は細かい装飾をするのが得意な奴が多いからな。
ちょっと、そいつと話してくるわ……
因みに、どんな模様か軽く教えてくれる?」
「あぁ。以前、ルトさんに見せた紙があるから、それ持って言ってくれ」
大将は奥から少し大きめの折りたたんだ紙を持ってきて差し出した。
それを受け取ったアイルは紙を開いて中身をみる。
「両扉で、ガラス窓がついていて......
上には雲、下には花の絵が描いてあったってことか」
「きっちり覚えてないから、大まかだけどね」
「ぜんぜんいいぜ。これで少し聞いてくるわ」
アイルは立ち上がり、帰り支度をする。
大将は少し驚く。
「もう帰るのか?いつも長い時間飲んだくれてるってのに」
「俺にも仕事があるの」
肩を回しながらアイルは続ける。
「最近、面倒事が多くてね。色々な片づけとか、工事をどうするとか……」
「そうなのか」
「まぁ、平和な世界で仕事がもらえてるからいいんだが、
最近、対応しないといけない件数が増えて来てるからな」
「体、壊すなよ」
真面目なトーンで大将はアイルに話す。
「おい、お前が心配とは!明日は台風だな」
「うるせぇ……また食いに来いよ」
「当たり前だろ……また扉について進捗あったら連絡するわ」
「ありがとう、頼んだ」
アイルは銀貨を手渡ししようとする。
それを大将は受け取った。
「ごちそうさま、行くわ」
「あいよ。またのご来店を」
手をひらひらさせながらアイルは店を出た。