町の中で何かが崩れる音がした日の夜。
大将のお店、小料理屋『ゆうなぎ』には人がたくさん入っていた。
ただ、店の中の話題は一つのようだ。
人間、魔族問わず噂が飛び交っている。
「やっぱり、切られた跡らしいぜ」
「マジか!?でも、建物って切れなくね」
「あの店を恨んでいる魔物の仕業って噂もある」
「まぁ、恨まれても仕方ないことばっかりしてたからなぁ」
「まぁな。そもそもあの店に近づきたい魔物なんていないし、
もしかしたら、あの店の店長の自作自演かも」
「確かに!それなら笑えるな!!」
様々なテーブルで色々な話が飛び交っている。
料理を作りながら聞いている大将は呟く。
「大変だなぁ……。まぁ、知ったこっちゃないが」
「ざまぁみやがれ、だね」
呟きを聞いたすずねが大将に話しかける。
その言葉を聞いた大将は顔をしかめる。
「すずねちゃん、その言葉の意味を知って言ってる?」
すずねは首を横にぶんぶんと振る。
「……しらない」
「……誰にならったの?」
「まえにきてた、まほうつかいのおねえちゃん。
あのみせのことはそういえって」
ハァとため息をつく。
そしてしっかりとすずねの方を見た大将が話す。
「次来た時に一回怒るとして……。
すずねちゃん、その言葉は人前では言ってはいけないよ」
「……?わかった」
すずねは少し首をかしげつつも、うなずく。
そして、注文を取りに他のテーブルに言った。
それを見た大将が料理を作り始めようとしたときに店の扉が開いた。
「大将!席、空いてる?」
「アイルか。カウンターなら空いてるよ」
「ういっす!」
勇者であるアイルは元気よく返事をして、
ニコニコしつつ小走りでカウンターに座る。
そして前回来た時とは異なり、剣を携えていた。
剣は細く、煌びやかな装飾が施されている。
その剣をカウンターに立てかけた。
「今日のおすすめは?」
「若鳥のから揚げ定食。いい鳥が入ったから」
「じゃあ、それを頂戴」
「あいよ」
大将はすでに下ごしらえを終えている一口大のから揚げを
油の中に入れていく。
パチパチパチ
唐揚げの上がるいい音が鳴る。揚がっていく唐揚げの様子を見ながら
大将はアイルに話しかける。
「なんで剣なんて持ってるの?初めて見たけど」
「あぁ、これ?」
アイルは横に立てかけている剣に目線を向ける。
大将は頷く。
「そう、それ」
「いや、久々にいい運動したんだよね~。やっぱり体動かすって重要だわ」
「……何をしたかは聞かない。お前の言う運動は恐ろしいことが多すぎる」
大将の言葉に首をぶんぶんと横に振りながらアイルは否定する。
「そんな!本当に運動しかしてないよ。
この剣を使って、素振りしていただけ」
「......まぁいいや。あと、なんでそんなにも機嫌がいいんだ?」
機嫌がとても良いアイルが不気味なのか、少しひき気味に尋ねる。
「そりゃ、運動していい汗かいて、大将の店でうまい物が食えるとか、
ニコニコしない方が失礼でしょ!」
「……そういうことにしておくか」
大将はこれ以上聞いても良くないと悟ったのか、話を切り上げた。
そしてあげていた唐揚げを油から取り出す。
それをお皿にのせ、ご飯と味噌汁と一緒にお盆にのせてからアイルの前に出した。
「はい、若鳥の唐揚げ定食」
「うまそう!いただきます!!!」
アイルは唐揚げを箸でつかんだ。