アクアが立ち上がってなった音で店内は一瞬静かになる。
店内の全員の目線が一瞬集まる。
アクアは顔を真っ赤にしながら席に座った。
そして顧客に話しかけられていたすずねが慌ててアクアの元に向かう。
「だいじょうぶ?なにかあった!?」
「大丈夫。ごめんね、少し慌てちゃって」
「わかった……あと、たいしょう、にほんしゅのひやおねがい!」
「あ……あぁ。わかった」
大将はサンマをひっくり返しながら、
日本酒の入った徳利とおちょこを渡す。
それを受け取り、お客の元へ向かう。
その様子をじっとアクアが見つめていた。
もふっ
もふっ
服からはみ出ている二本のしっぽが揺れる。
それを見たアクアが目を丸くした。
「本当ですね……初めて見ました」
「初めて?妖狐は尻尾が増えるもんじゃないのか?」
「魔王様に聞いてみないとですが、私は初めて見ました。
普通の妖狐は尻尾が1本で増えることはない......はずです」
「……うん、まぁいいや。また魔王さんに尻尾のことも聞いておいてくれないかな?」
「わかりました」
アクアが頷く。
そして、大将は焼き終えたサンマを皿に載せ、
ご飯、お味噌汁がすでに乗ったお盆の上に、そのお皿をのせる。
「はい、サンマの塩焼き定食おまち!」
「おいしそう!!!この料理のためにこの店に来てるんだから!」
アクアは手を合わせる。
「いただきます」
そう呟いたのち、置いてあった箸を持ち器用にサンマをほぐしていく。
焼きたてだからか、ほぐしたところから湯気が立ち上がる。
「アクアさん。本当に箸の使い方も、魚のほぐし方もうまくなったね」
「どれだけこの店に通ってお魚食べてきたと思っているんですか!」
アクアはニコニコしながら、箸の先端を当ててパチパチとならして見せる。
ほぐしたサンマの身にちょこんとお皿の上に載っていた大根おろしをのせて、醤油をかける。
そして口の中に放り込んだ。
「う~~~ん!!!」
アクアはもぐもぐしながら両目をギュッとする。
サンマの味を噛みしめているようだ。
その様子を見ていた大将は声をかける。
「どうですか。おいしいサンマでしょ?」
「本当に今日この店に来てよかった……魔王様、ありがとう」
アクアはしみじみと答えた。
そしてその後は一言も話さず、食事を楽しむかのように、
ご飯、味噌汁と共にサンマを食べ続ける。
気づけば、骨だけ綺麗に残して食べきっていた。
箸をきちんと並べておいて手を合わせる。
「ごちそうさまでした」
そう呟くと、懐から何かを取り出そうとする。
その姿を見た大将は声をかける。
「アクアさん、お代は良いですよ」
「いえ、そんなわけには……」
「その代わり……」
大将はニコリとして続ける。
「次もすずねちゃんの情報をお願いします。どんな小さなことでも」
「……」
大将の想いを受け取ったのか、アクアは少し黙って頷き答える。
「もちろんです。すずねさんと大将のため、全力で調査いたします」
「ありがとう……でも次来た時に情報なかったら、もちろんお金取るからね」
「もちろんです。でも、お金は払わないと思いますけどね」
笑いながら、そして冗談っぽく大将が話し、アクアもにこりと笑って返事をした。
そして席を立ち、店の扉に向かう。
その途中、何か思い出したかのように振り返って尋ねた。
「そうそう……風の噂で聞いたのですが、
勇者様がかなりお怒りとのことなのですが、何か知っていますか?」
「アイルが……いや、何も。なんで怒っているの?」
想像できないのか、首をひねりながら大将は話す。
アクアはため息をついて続ける。
「あの方のことだから、どうせ他の人のことで怒っているのだと思います」
「そうだろうね。前に家が一軒吹き飛んで無くなったときなんて、
目の前で魔族の子供がいじめられているのを見たからって聞いたし」
「怒ってくれるのは嬉しいのですが、加減というものを知らないから」
「仕方ないと思うよ。勇者だし」
「そうですね」
アクアは話し終えたのか、扉に近づき開く。
「では、また食べに来ますね」
「ぜひ。おまちしております」
大将がそう言うと、アクアは店を出た。
「たいしょう、なにはなしてたの?」
すずねが長話をしていた大将に尋ねる。
「世間話だよ。さっ、もうすぐ店も閉めるし片づけようか!」
「うん!!」
二人は店の片づけを始めた。