勇者のアイルと魔王のルヴィアが来てから数日たったある日のお昼。
店の外から、カーン、カーンという心地の良い音が聞こえてくる。
その音を聞いて、すずねが大将に尋ねる。
「たいしょう、あのおとは?」
「あぁ、ルトが祠を直してくれてるっぽい」
「そうなの。みてきていい??」
「あぁ。ついでにこれを渡してくれないか」
大将は笹の葉で包まれたものをすずねに渡した。
想像より重たかったのか、手を上下にして重さを確認しつつすずねが尋ねる。
「これは?」
「ドワーフさんのためのおにぎり。祠を修理してくれてるなら、
ぜひお昼ぐらいはちゃんと食べて欲しいからね」
おにぎりという言葉を聞いた瞬間、すずねは少し顔をしかめる。
何か辛い思いでを思い出しているようだ。
「しゅっぱいのきらい……」
「ルトさんは好きだから入れてるけど、すずねには鮭を作ってあげるから」
「うん!!」
ニコッとして、すずねが店から出て行った。
大将はそれを見届けたのち、夜の仕込みの準備を続ける。
そして少し時間が経つ。
まだ大将は仕込みが終わっていないのか、必死に仕込みを続けている。
すると、引き戸がガラガラと開いた。
そして、男の声が聞こえる。
「おい、お前何してるんだ」
その声を聞いた瞬間、食材を切り分けていた大将の眉間にしわが入った。
包丁を一旦おいて、入り口をにらみつける。
「……どうも『あさぎり』店長のオルクさん。
今、仕込みで忙しいので、後にしてもらっていいでしょうか」
「何言ってやがる」
オルクはにやにやしながら大将の方に向かう。
「お前の店、ボヤがあったらしいな」
「……まぁ、運よく大事にならなかったですが」
「裏のゴミ箱を燃やされるとか、恨まれることをしてるからじゃないか?」
オルクはケラケラ笑いながら話しているものの、大将は目を細めて話す。
「……オルクさん。どうして裏のゴミ箱が燃えたこと知っているのですか?」
「何を言っている?そんなの他の人に聞いたからだが?」
「はぁ……」
大きくため息をついた後に大将は続けて話す。
「確かにこの店でボヤがあったことは噂になると思います。
ただ、燃えた場所はその場にいたルトと俺、あと衛兵しか知らないハズなのですが……
誰に裏のゴミ箱が燃えたって聞いたんですか?」
「……うるさい!そんなのお前は知らなくていいだろ」
オルクは顔が青ざめつつも急に怒鳴り始めた。
その様子を大将は冷めた目で見ている。
「まぁ、知りたくもないですが……で何の用ですか?」
「用なんてない。ただ、燃えた店の跡を見に来たかっただけだ。
こんな店、さっさと燃えた方が良かったかもしれんがな」
すると、再び扉が開く。
そこには、ルトの元に向かったすずねが手ぶらで帰って来た。
「ただい……ま」
すずねは、明らかにおかしい雰囲気にたじろぐ。
その声を聞いて振り向いたオルクは顔をしかめる。
「なんだ、この汚いのは」
「!?」
悪意を向けられたすずねは怖さで固まったまま立ち止まってしまう。
「おい、訂正しろ」
「......は?」
今まで聞いたことのないような低い声が店に響く。
オルクは大将の方を向く。
再び同じトーンで声が店の中に響く。
「俺のことを言うのは勝手に言っていいが、他の人を巻き込むのはやめろ」
「な、何いってやがる!!黙れ!!!」
大将の圧にたじろぎながらも、オルクは怒鳴りながら言い返す。
すると、開いていた扉からがゆっくりと人が入る。
ただ、店の中にいる人は誰も開いたことに気づいていないようだ。
叫ぶようにオルクは続ける。
「お前なんて、さっさとこの町から出て行かせてやる!!」
「それはちょっと困るな~」
店に入って来た方から急に気の抜けた声が入り、
大将とオルク、そしてすずねはその声の方向を見た。