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ep.2-3 おにぎりパーティー!

大将はすずねが首をかしげつつも、

すずねの尻尾の方が力強く揺れていることに少し笑ってしまう。

咳払いをして、すずねの方に近づいておにぎりについて教える。



「ご飯を丸めたもの。具材を中に入れて海苔をまく」

「わからないけど、たべる!」

「なら、机が拭いてほしいな。たぶん終わったころに食べる準備ができると思うから」

「わかった。がんばる!」



すずねにとっては未知の「おにぎり」を食べたいためか、勢いよく布巾で机を拭き始めた。

その様子を見ていたドワーフのルトは大将に話しかける。



「結局……あのかわいい子は何なんだ?」

「愛嬌があって可愛いでしょ。名前はすずねちゃん」

「それはさっき聞いた。そうじゃなくて、どうしてこの店にいるんだ?雇ったのか?」

「……わからない」

「わからない!?」



ルトがカウンターの席から立ち上がり大将に詰め寄る。



「わからないってどういうことだよ!」

「その言葉の意味だが……」

「お前もしかして……人さらいでもしたのか!?」



ルトは大将につかみかかろうとする

大将はルトに落ち着くように言った。

そしておにぎりを作りながら、これまでのことを話し始めた。



衛兵が来た後に店に帰ると、床にすずねが倒れていたこと。

名前がすずねということ以外はわからないこと。

お腹を空かせて倒れていたこと。

家がわからないこと。

理由はわからないがこの店で居たい様子であること。



大将はルトに話しつつも、おにぎりの準備はほぼ完成した。



「……なるほど。つまり、親が来るまではこの家で見るってことだな」

「まぁそうなるな」

「とはいえ……どう見ても妖狐だが、親は居るのか?」

「やっぱり妖狐なの?」

「普通に考えればな。あの耳としっぽを見れば誰だってそう思うだろ」



ルトは机を拭きつつも尻尾が楽しげに左右に揺れているすずねを指した。

その指している方向を見つつも、大将はルトに答える。



「魔族は全く詳しくないからな」

「そっか。大将はこの世界のもんじゃなかったっけか?」

「まぁ、一応ね」

「じゃないと、こんな目新しい料理ばっかりだせないか」



ルトの言葉に大将は苦笑いする。

すると、すずねが布巾をもって話しかける。



「つくえふき、おわった。おにぎり!!!」

「ちょうど出来上がったから一緒に食べようか」



大将はお皿をカウンターから二人に渡す。

お皿には大きなおにぎりが3つあり、どれも海苔がついている。


そのお皿をルトとすずねが受け取る。

そして、大将がカウンターで空いている席に座って手を合わせる。



「「「いただきます!!」」」



3人は元気よく言って、手前にあるおにぎりにかぶりついた。



「……うにゃ!しゅっぱい!!!」



口をすぼめて変な顔ですずねが叫ぶ。

尻尾は上にビリビリと毛が立ってる上、ビンと高く伸びていた。

その顔を見て大将は苦笑し、ルトは笑った。



「すずねちゃん。それは梅干しだね」

「ガハハ!嬢ちゃんには梅干しのおいしさがわからんか」



ルトは大きな口で梅干しの入ったおにぎりを頬張る。



「いつ食べてもこの酸味とご飯の相性がたまらんわ。

 どうしてこっちの世界ではないのだろうか」

「こっちの世界には梅みたいなものを見たことあるので、作れると思いますよ」

「そうなのか?また今度作り方教えてくれい」

「いいですよ」



大将とルトのたわいもない会話を見ていたすずねが

目に涙をためて必死に助けを求める。



「たいしょう。しゅっぱい」

「あぁすまない。はい、お茶」




こくこく

ぷはー




大将からお茶を貰ったすずねは急いで飲む。

すずねは少しおびえながら尋ねる。



「たいしょう、ほかのおにぎりもおなじやつ?」

「いや、三つとも違うものだよ。他はすずねちゃんでも食べれるよ」



それを聞いたすずねは梅干しのおにぎりをお皿の上に置き、

違うおにぎりを持った。

そして今度は小さくかじりつく。

白いご飯の中から、鮮やかな赤色が見える。



「……これ、おいしい!」

「それは鮭だね。おいしいって言ってもらえてよかった」



大将はにこにこする。

それを横で見ていたルトがおにぎりを一つ持つ。



「さっきのが梅干し。こっちが鮭となると、これは……」



ガブリとかじりつく。



「ガハハ!やっぱりおかかだったか」

「俺が好きなもんで」



大将は恥ずかしそうに話す。

そのままおかかをパクつきながら、ルトが話す。



「おにぎりってのはいいね。ご飯と合う食材なら何でもいける」

「そうですね。他には、昆布、ツナマヨとかありますが、

 最近は塩むすびってのもありますよ」

「塩の塊でも入れるってのか?しょっぱそうだなぁ」



ルトは最後に残った鮭のおにぎりを頬張りながら顔をしかめる。

それに大将は笑いながら答えた。



「いえ、塩むすびってのは、おにぎりを握るときに少しだけ塩を手に付けて

 握るものですね。ほんの少し塩の香りがしておいしいですよ」

「ガハハ!びっくりしたわい。今度、それも作ってくれんか?」

「わたしもたべたい!!!」



ルトの言葉にすずねも手をあげながらお願いする。



「わかりました、いいですよ。是非またこんど作ります」



大将はニコッとして答えた。

すずねはその笑顔に引きつられて笑顔になっていた。

食べ終えたのち大将は夜の開店に向けて、料理の仕込みを始めた。

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