天使だなんて仕事を押し付けられても、残るのは困惑だけだった。
どうやら僕は死んだらしいが、幸福に死んだ人間は、後悔を残して死ぬ運命にある人間をまた幸福に導かなくてはならないらしい。
幸福に死んだと言われても、生前の記憶なんてまるで残っちゃいないが。
とにかく、僕のターゲットはこの病院の寝たきり患者らしい。
しかし天界とやらは何を考えているのか。
十五歳の女の子に、こんなやさぐれた男の見てくれをした自称天使が近寄ったとて、信用されるわけがないだろう。
「……あなた、誰ですか」
ほら見ろ、不安そうな顔をしてるじゃないか。
「ああ、その、僕は怪しいものじゃなく、てな。……その小説、面白いかなって」
とりあえずの取っかかりとして、僕は女の子の手に収まった文庫本から話を広げることにした。
「……そこそこです」
つまり面白くない、と。
女の子はひどく退屈しているようだった。それはベッドの周りに散乱した本のくたびれ方から見ても明らかで、とにかく、この部屋から自分を連れ出してくれる何かを探しているように見えた。
そうか、なら話は意外とシンプルなのかもしれない。
「よかったら、少し話し相手になってくれないか」
「私、つまらない人間ですけど」
「本を乱読する人間がつまらないことはむしろ珍しいよ」
僕は彼女のベッドのそばの椅子に座り、話を始めた。
「……今から話すのは僕の考えた物語、なんだけど。もしかしたら、気に入ってもらえるかもしれないと思って」
物語、という響きを聞いた彼女の目は一気に輝く。
「私、中途半端な話は嫌いですよ」
「……怖いな、それは」
この子を幸せにできるかどうかなんて、やはり僕にはわからない。けれど、自分が幸せに死なせてもらった分だけは、この子のために頭を使って、言葉を尽くしてみようじゃないか。
誰のために?
それは、多分、
僕が死ぬ間際、そばにいてくれたかもしれない誰かのために。