話を聞くに、彼女は自分を天使と思い込んでいる精神疾患者のようだった。
僕が興味本位で天使だか天界だかについての質問を投げかけてみると、彼女の頭の中で確立されているらしい設定をペラペラと答える。
「だから繰り返し言ってますよね? 天使の仕事は、つまんなさそうに人生を終える人に手を差し伸べることです」
「はあ、それで?」
この問答にも飽きてきた僕は、五本目の煙草に火をつける。これだけ連続で吸うと、もう味すらもわからなくなった。
「そういう、自ら寿命を減らすような馬鹿な真似、しなきゃよかったな〜って思いながら、安らかな眠りについてもらいます」
「それ、悪魔と何が違うんだ? 人生の終わり際でそんな後悔、するだけ損だろ」
ちっちっち、と自称天使は指を振る。いちいち挑発的な所作だった。そのせいで、気づいたときには僕も敬語を忘れて話している。
「その方が来世、頑張れるじゃないですか」
咥えた煙草の先から、大きめの灰がぼろっと落ちた。
「ああみんなの屋上汚しちゃって。これだから煙草を吸う人は偏見食らうんですよ」
「……来世?」
僕が聞き返すと、自称天使は軽く自分の胸に手を当て、まるで神託を告げるがごとく言った。
「そう、来世です。この世界って、現世で後悔した分、来世がよくなるようにできてるんですよ」
どうやら彼女は本当に頭がどうにかしているらしい。少し気の毒になって、僕はまた話を振る。
「……まあ、それは飲み込むとして、もし来世がその辺を飛んでる羽虫だったら、たとえ一等の宝くじを拾ったとしても来世がよくなったとは言えないんじゃないのか」
「それについてもご心配なく。一度人間として生まれた命は、何度死んでも人間にしか転生しません。というか、基本繰り返し、なんですよね。あなた、後藤省吾は来世も変わらず、後藤省吾の人生を歩むことになります」
いきなり名前を呼ばれて少し驚いたが、ここは病院だ。調べようと思えば患者の名前くらい簡単に手に入るだろう。つまりそこまで入念な下準備をしてまで、この女の子は僕を天使詐欺のターゲットに選んだ、ということになる。
僕は彼女の語る設定よりもその事実に、頭を抱えたくなった。
「……最悪だな」
「そう思うでしょう? だからこその天使なのです。天使といて後悔した分、その後悔は来世のあなたの無意識に刷り込まれます。すると、必然的に来世の方がより幸福な人生が歩めるというわけです」
なるほど、自分で考えたにしては論理の通った設定だ。
だけどそれが本当なら、いっそう僕にとってはなんの魅力もないシチュエーションということになる。
「……まあいい。それで、その筋書き通りなら僕は間もなく死ぬのかな?」
「まあ、はい」
「曖昧だな」
自称天使はぽりぽりと頬をかき、視線を斜め上の方へ逃がしながら言った。
「間もなく、というのは少し語弊がありますから」